韓国での“ひとり飯”は許されない!? 韓国と日本はこんなに違う、食文化から見る韓国論

社会

2019/4/8

『韓めし政治学』(黒田勝弘/KADOKAWA)

 なぜ、なかなかわかり合えないのか──。お隣、朝鮮半島(以下、半島)の両国と日本のことだ。社会主義を掲げる北朝鮮とはまだしも、韓国とは同じ民主主義国家で、資本主義経済国だ。それでもかみ合わない国民性の違いはどこに…と、悶々としていた矢先、とても興味深い本を手にした。『韓(から)めし政治学』(黒田勝弘/KADOKAWA)である。

 著者のコラムニスト、作家の黒田勝弘氏は、共同通信と産経新聞のソウル支局長を歴任し、ソウル在住歴は35年以上。ハングル語で記事を書くほど言語にも精通し、半島の政治と生活文化の両面を深く知る人物だ。

 そんな黒田氏による本書は、半島(主に韓国)の「食文化」とその歴史から透けて見える政治や国民性を考察した、食を通した韓国論。とはいえ、決してお堅い書ではない。

■今韓国で議論が盛んな「ホンバプ問題」とは?

 エッセイのようなタッチで半島の料理や食材に関するうんちくを語りつつ、食文化の歴史や日本との違いなどを取り上げ、食とゆかりのある政治家や政治の話題に触れていく。

 例えば冒頭では、南北指導者が板門店で歴史的会見をした日(2018年4月27日)の晩餐会メニューを分析し、料理や食材から両首脳の思惑などを解く。このように、本書はじつに味わいのある、そして理解が深まる食と政治の書なのである。

 本書を読んで、筆者の疑問であった、かみ合わない日韓の国民性の謎がひとつ解けた。それは、食事という行為に対する価値観の大きな相違だ。具体的にいえば「おひとり様文化」に対する容認ギャップである。

 日本では、男女年齢を問わず「ひとり飯」をしていようと、なんらレッテルが貼られたりはしない。しかし韓国では、事情は大きく異なるという。それが、本書が取り上げるテーマのひとつ「ホンバプ問題」である。

 ホンバプとは韓国語で「ひとり飯」を表す言葉で、近年、韓国マスコミでよく取り上げられる話題だ。その理由は、韓国でも徐々にホンバプラー(ひとり飯をする人)が増えつつあり、このことが忌々(ゆゆ)しき社会問題だからである。

 というのも韓国において食事は、同席する互いが胸襟を開く行為であり、理解を深める機会でもある。そのため、食事は「複数で行うことがよい」とされてきた。これまでホンバプラーに対しては、「人間性に欠陥あり」とのレッテルを貼ることで、それを阻止してきたという経緯がある。

 ちなみに著者は、韓国で牛丼の「吉野家」が流行らなかった理由の一因も、ここにあると記している。

 この、ひとり飯でダメ人間レッテルが貼られるのは一般人だけではない。大統領といえどもしかりで、国民やマスコミからの批判が一気に集中したのが、歴代の大統領の中でも異例の存在、バリバリのホンバプラーだったという朴槿恵・前大統領(パク・クネ、第18代大統領、複数の罪に問われ拘留中)だ。

■安倍首相を食事でもてなさなかったことが大問題に!?

 著者も交流があったという朴槿恵被告は孤高の存在で、国内の政府関係者とさえ会食をしないことで有名だった。そして2015年11月に韓国を訪問した安倍首相に対しても昼食会を開かなかったことで韓国世論の批判はピークに達した、と著者は記す。反日感情はあれども、「食事で客をもてなさないのは韓国人の恥」ということだろう。

 だがなぜ朴槿恵・前大統領は、批判覚悟でホンバプラーを貫いたのか。著者が推測するのは、おそらく父で、第5代~第9代大統領だった朴正煕(パク・チョンヒ)氏の死に際と無関係ではないだろう、ということである。

 朴正煕氏はまさに韓国スタイルの王道を行く人物で、昼夜の会食会を欠かさない人物だった。しかしその会食の場が、最期の舞台(信頼していた腹心による銃殺)にもなってしまったのである。

 ホンバプラーであった現役当時の朴槿恵を、国民やマスコミは「プルトン(話が通じない人の意味)」の代表格として位置づけたそうだ。人と会食をしないというだけで、このように人格否定までされてしまうのが、韓国の食事に対する価値観なのである。

 しかし前述のように、最近では「ホンバプ容認論」を訴える声も登場し始めており、韓国では、ホンバプラーの位置づけをめぐる議論が沸騰しているそうだ。

■韓国に赤唐辛子を持ち込んだのは豊臣秀吉だった!

 最後に、タイトルの「韓(から)めし」についても、少し紹介しよう。韓国料理といえば、キムチ他、赤唐辛子をふんだんに使った辛いメニューが定番だ。じつはこの赤唐辛子文化を持ち込んだのは、豊臣秀吉(朝鮮出兵)だったことは韓国でも知られているという。

「侵略してきた秀吉が日本から持ち込んだ食材など使うな」とはならず、「赤唐辛子は別であり、国民的食材」となっているあたりにも、韓国人の国民性が少し垣間見られるというエピソードである。

 本書の「食という切り口」が素晴らしいのは、ふだん無関心な政治の世界への敷居をぐっと下げて、そこに招き入れてくれることだ。ぜひ、本書を機に、韓国の世論や政治の在り方への理解を深め、今後の友好関係へとつなげていきたいものだ。

文=町田光