「あんた他人に興味ないでしょ」痛すぎる指摘を受けた主人公は…『凪のお暇』が最新巻で新たな境地へ

マンガ

更新日:2019/6/13

『凪のお暇』(コナリミサト/秋田書店)

 他人の顔色ばかりをうかがって無理をしすぎていたOL・大島凪は、ある日我慢の糸が切れ、突如会社を退職。その日以来、がんばってアイロンでストレートに伸ばしていた髪の毛は、完全に放置されアフロのような天然パーマ状態に。家で豆苗を育てながら質素な生活。誰にも気を使わず自由気ままに生きることができる喜びを感じる。

『凪のお暇』(コナリミサト/秋田書店)は、今まで抑圧されていたひとりの女性が人生をリセットし、新たな道を歩み始める物語だ。

 しかし、人生とは、そう簡単に全てをリセットできるものでもない。すれ違ってばかりであった元カレ・我聞慎二は凪のことを諦め切れず、彼女を執拗に追いかける。しかし、彼の本心を知らないまま、隣人の安良城ゴンに恋をする凪。慎二と違って嫌なことを言わない、自分のことをありのままに受け入れてくれるゴンにメロメロになる彼女だったが、ゴンのあまりに自由でマイペースな性格に徐々に振り回され、ノイローゼ状態に陥ってしまうのだった。

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 会社を辞めたからって、簡単に性格が変わるわけがない。凪の、他人に振り回されやすい性格は健在で、それでも強く生きたい、変わりたい、と頑張りながら、徐々に活路を見出していく姿は、とても地に足がついている。劇的に何かが変わるわけではないから、彼女のあまりにゆっくりすぎる成長にもどかしさを感じる人もいるかもしれないが、このあくまで現実的な部分というのは、この作品の大きな魅力でもある。

 そしてそれは、特に最新巻で表れていたと思う。

 今までは、誰かに抑圧され続けていた側として描かれていた凪が、今作ではなかなかに「痛い忠告」をもらうこととなる。

 アルバイトを始めたスナックで、なかなか接客がうまくいかずに悩む彼女に、ママが「あんた人に興味ないのかと思ってたよ」「いや違うか 正しくは好きな人にしか興味ないっていうか それ以外は人間だと思ってないでしょアンタ」と一刀両断。自分のことを「わりと聞き上手な方」だと思っていた凪は、赤面する。いつも誰かに主導権を任せ、ただ相槌を打つだけだった彼女は、他人に興味を持っていなかったのに、自分には興味を持って欲しいという願望を抱いていたことに気づき、あまりの恥ずかしさに自己嫌悪に陥るのだ。

 今までどちらかというと「悲劇のヒロイン」のような描かれ方をしていた凪が、今作では傲慢で嫌な部分も描かれていて、より人間味を感じられる巻だった。凪の視点から見ると悪者のように映っていた人が、実は彼らは彼らなりに日々の鬱憤や悩みを抱えていたりする。「嫌な奴」が次のページでは「愛おしい奴」だと思えるような物語の運びには、作者の鋭く愛情に溢れた人物描写の妙に思わずため息が出る。

 また、慎二の職場に凪よりもずっと「主人公っぽい」女性も新たに登場して、何やら慎二と凪の関係性が大きく変わりそうな予兆を見せている。凪がちょっと「嫌な奴」になったタイミングで、「誰も憎めないような」新キャラ登場(おまけに慎二に矢印が向いている)、というアツすぎる展開。この作品、これからどんどんおもしろくなるぞ、と確信した最新巻だった。

文=園田菜々