トルコ人エコノミストが「日本経済の将来は明るい!」と語る、その真意とは?

ビジネス

公開日:2019/4/17

『それでも強い日本経済!』(エミン・ユルマズ/ビジネス社)

 2018年にイギリスの教育団体・バーキー財団が世界29カ国で実施した意識調査によると、「子供の将来を楽観視している」と回答した日本の親は全体の28%だった。これは調査対象国の平均である60%を大きく下回っており、順位も最下位となっている。その他の国際的な意識調査でも、日本では将来について、とくに経済的な将来を悲観している人の割合がつねに50%を超えており、世界的には断トツに悲観的な国民性といえるかもしれない。

 しかし、それは間違った悲観主義であり、日本経済の未来は明るいと主張するのが、『それでも強い日本経済!』(エミン・ユルマズ/ビジネス社)だ。著者はトルコ出身だが、17歳で来日すると、留学生枠ではなく一般入試枠で東京大学理科一類に合格。その後、野村證券に勤め、退社後はエコノミストとして精力的に活動しているという異色の経歴の持ち主である。

■少子高齢化は、ネガティブ要素ではない!?

 多くの日本人が将来を悲観する最大の要因は、止まらない少子高齢化だろう。だが、本書は「人口減少は歓迎すべきことだ」とし、日本の理想的な人口は自給自足の可能な7000万~8000万人だとする。著者によれば、人口が多いということは国民ひとり当たりのリソース(資源)が減ることであり、中世ヨーロッパでは、ペストや戦争によって人口が激減したことで、一人ひとりに与えられる資源が増加し、それがルネッサンスを生んだのだという。

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 そして、平均的な教育レベルが高く、インフラが整い、貯蓄率の高い日本は、すでに「ヒト・モノ・カネ」がそろった状態にあり、新たなルネッサンスが生まれる可能性が高いというのだ。

 とはいえ、少子高齢化が、労働人口の減少や社会福祉制度の崩壊など、さまざまな問題を生じさせるのも確かだろう。それに対して著者は、インターネットやAI(人工知能)、VR(バーチャルリアリティ)、ロボットといったテクノロジーの発展によって問題を解決していけるとする立場に立っている(ただしすさまじいグローバル競争にさらされる、という前提つきだが)。

 テクノロジーの進歩によって日本の少子高齢化の問題が解決できるかどうかは、意見のわかれるところかと思われるが、世界の多くの国々とくらべたとき、現在でも日本は恵まれた環境にあり、「理由なき悲観」で一喜一憂するべきではないという本書の主張には一理あるだろう。

■トルコ出身の著者から見た「日本の姿」とは――

 たとえば、著者の母国であるトルコでは、2018年にトルコリラが対ドルで一時20%も下落するほど経済は不安定で、周辺国では紛争が絶えず、国内には民族問題も抱えていて、そのうえエルドアン現大統領の政治手法はきわめて強権的だ。そういった政治・経済の状況とくらべたら、日本は天国のような環境であると感じても不思議ではない。本書にある「日本人は生まれた瞬間に光り輝く黄金の絨毯(じゅうたん)の上に生まれた」という言葉は、まぎれもなく著者の実感といえるだろう。

 本当は、悲観的にもなりすぎず、楽観的にもなりすぎず、いつも物事をフラットに眺められるのが一番いいのはわかっている。ただ、それは実際には難しいことだ。ならば、できるだけ多くの視点で多角的に物事を眺めるというのが次善の策だろう。

 トルコは、歴史的にみても世界有数の親日国であり、著者は子どものころから日本のゲームやアニメが大好きだったというから、本書の日本楽観論はそういった背景に裏付けられているかもしれない。だが、それでも日本人が内向き思考になり、なかなか持てないでいる“異なった視点”を本書が提供してくれることは間違いない。

文=高坂笑/バーネット