現代医療に「医者の差」はない!? SNSで有名なヤンデル先生のリアルな医療の話

暮らし

2019/4/24

『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと』(市原真/大和書房)

「医療とはシアターだ」

 SNSで約10万人のフォロワーを誇る「病理医ヤンデル(@Dr_yandel)」のアカウント名で有名な病理医・市原真先生。彼は『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと』(市原真/大和書房)の中でそう結論づけた。

 どれだけ医療が進歩しても、私たち患者にとって病院は、分厚いベールに包まれた謎な世界。「なんだかよくわからないけど、とりあえず行けば、お医者さんに病気を治してもらえる」。そんな認識がいまだぬぐえない。互いにどれだけ歩み寄ろうとしても消えない壁がある。

 ヤンデル先生はその壁を取り払うべく、本書でおおまじめなエッセイを記している。まるでひとりごとのように、病院のこと、医者のこと、病気のこと、その真実をつづる。

 本書を読んで驚くことが多かった。たとえば「標準治療」だ。テレビでは定期的に世界的な名医を取り上げ、書籍ではがん治療に関する最新の情報を取り上げ、ネット上では「○○をすれば治る!」とまことしやかな一文がデカデカと見出しを飾る。私たちはそれにつられて、命がけで情報を頭に叩き込む。

 けれどもヤンデル先生は本書で断言する。

現代医療において、「医者の差」が、決定的な「予後の差」になることは比較的まれだ。

 現代医療は原則エビデンスに基づいて行われる。ガイドラインと呼ばれる、将棋のように「こんなときはこうせよ」という医療の定石が大量にあるのだ。これが世界に誇る「標準治療」。

 常識的な医者であれば、標準治療だけは外さない。反対に「必ず治る」「まだ新しくて世の中に広まっていない医療を行っています」のような文句を謳う医者は、あまり信用できないそうだ。

 ヤンデル先生は、このように私たちの知らない「常識をくつがえすリアルな話」をいくつもつづる。

 大学病院と町のお医者さん(=開業医)の違いも新鮮だった。私たちは大学病院のほうが高度な医療を提供してくれると思っている。しかしヤンデル先生は、「マニアックな医療を受けられるかどうか」と解き明かす。

 大学病院にはお金がある。だから最先端の先進医療を受ける設備が整っている。しかし町医者にはそのようなお金がないので、オーソドックスな設備を構える。

 反対に町医者は、患者の話をしっかり聞いて医療方針を一緒に決める、極めて人間的な「医療面接」を細やかに行う。この面接で病気のサインを1つでも見逃すと、病気の進行や治療方針で大きな狂いが生じる。

 どちらの医療の質が高いか、ではなく、それぞれに良さや役割がある。本書を読んでそう感じた。私たちは「どうすればもっと良い医療を受けられるのか?」と考えがちだが、ヤンデル先生はそれに一石を投じる意見を本書の最後につづる。それが記事の冒頭で挙げた「医療とはシアターだ」。

 どれだけ医療が進歩しても、医療を提供する側と受ける側に理解の差があると、思うように病気と闘えない。患者は病気や将来への不安が拭い去れず、医者の苦労は増していく。

 このような壁が生まれる理由は、「医者が患者の命運を握る」と考えてしまうところにある。しかし医療の本来の姿は、病気と闘う主演(=患者)がいて、がんをはじめとする悪役(=病気)がいて、主演を助けようとするお医者さんがいて、主演の体の状態を維持する看護師さんがいて…みんなで関わりながら物語をクライマックスへと導いていくというものだ。

 まさしくシアターだ。どの配役が欠けても物語が成立しない。この重要性を医者だけでなく、患者だけでなく、みんなで一緒になって考えるべきだ。ヤンデル先生はそう訴える。

 ひとりごとにしてはおおまじめで、大きな声で聞こえてくるこのエッセイ。良い医療を受けたいなと思う人はぜひ読んでほしい。そしてシアターに立つイメージを持ってほしい。

 人は病気にかかる。だからいずれ誰もがシアターに立つ。私たちは主演だ。病気と共に、物語をクライマックスへ導く準備を始めるべきだ。

文=いのうえゆきひろ