「ん、いまなんつった!?」クドカンが思わず耳を疑った「名&迷セリフ」に爆笑必至!

エンタメ

2019/5/1

『ん!?』(宮藤官九郎/文藝春秋)

 宮藤官九郎、通称“クドカン”。言わずと知れた超人気脚本家である。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に続き、今年、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の脚本を担当。その勢いは止まるところを知らない。

 数々の名ゼリフを生み出してきたクドカンだが、日常生活の中で「ん、いまなんつった!?」と耳を疑うセリフを聞くことがあるという。そんな名&迷ゼリフ88個を集めたエッセイ『ん!?』(宮藤官九郎/文藝春秋)を読んだ(このタイトルからして、「ん!?」だ)。クドカンの鋭い視点に脱帽するとともに、あの独特のゆるさがたまらなく面白い。

■「キュウリ半分」

 舞台『ラストフラワーズ』。演出のいのうえひでのり氏が村杉蝉之介にこう言った。「セリフの合間にキュウリを一切れかじって」。簡単なように思えるが、セリフに気を取られるとキュウリがゴロゴロと居座って喋りづらい。かといってキュウリに気を取られるとセリフがおぼつかない。共演者が慰めたところ、村杉は「キュウリのせいじゃないです」と神妙な顔つきになり、こう言ったそうだ。「キュウリ半分、自分半分ですから」――。

 さすがは20年のキャリアを誇るベテラン俳優ならではの、殊勝な言葉だと感心するクドカン。……と同時に、こうも思ったという。(半分もキュウリ任せだったのか――)。せいぜい10%ぐらいだろうと思っていた。たかがキュウリに大事なセリフの半分を委ねるなんて! この「○○半分、自分半分」という言い方が仲間うちで一時的に流行った。「相手役半分、自分半分」「セリフ半分、自分半分」……しまいには、「今日ウケなかったのはお客半分、昨夜のお酒半分だな」と、クドカンは100%他者の責任にして反省しなくなったという。

■「共学になるってよ」

 2014年に放送された大人気ドラマ『ごめんね青春!』。男子校と女子校が合併して共学になるというドラマだが、これはクドカン自身の青春時代のもどかしさから生まれたものだという。クドカンが通っていた高校は、下駄履き&腰に手拭いのバンカラ校で、地元では「山猿」と呼ばれていたほど。3年間、母親と姉以外の女性と喋る機会もなかった。すると定期的にこんな噂が流れた。「来年、女子校と合併するらしいぜ」「共学になるってよ」――。なんの根拠もないデマだとわかっているのに、一喜一憂する学生たち。しかしクドカンは「憂」担当だった。

 男子校という特殊な環境下でようやく獲得した、自分の立ち位置が揺らいでしまうからだ。「だって女子ってさあ、不良とスポーツマンと二枚目しか見えない生き物なんでしょ? 俺なんか害虫扱いじゃん」――。卒業して十数年後、母校は少子化と過疎化に負け、本当に女子校と合併したそうだ。「なんだかとても悔しかった。その気分をそのまんまドラマにします」と締めくくられている。

 本書には、クドカンの映画、ドラマ、舞台の裏話が盛りだくさん。いや、裏話と言うより「これが本編でいいんじゃ?」と思うほどにハイクオリティなエピソードが満載だ。クドカンの書く脚本はなぜこうも面白いのか? その答えがここにある。

文=水野シンパシー