「なぜこんな所に鬼が…?」日本絵画の“なぜ?”をマンガで全部解説!

文芸・カルチャー

2019/4/20

『マンガでわかる「日本絵画」のテーマ 画題がわかれば美術展がもっともっと愉しくなる!』(矢島新:監修、唐木みゆ:イラスト/誠文堂新光社)

 2019年3月まで森アーツセンターギャラリーで開催されていた『新・北斎展』や、今月初旬まで東京都美術館で開かれていた『奇想の系譜展』など、現在さまざまな日本絵画を扱った展覧会が非常に好評である。作品の持つ迫力や美しさはもちろんのこと、そこに描かれているテーマの深さも多くの人の共感を呼んでいる。

 現在、多くの展覧会では美術に詳しくない人にも分かりやすいようにと音声ガイダンスが用意されている。それがきっかけで「絵画に描かれたテーマ」に興味を持った、という人もいるだろう。そういった方は、『マンガでわかる「日本絵画」のテーマ 画題がわかれば美術展がもっともっと愉しくなる!』(矢島新:監修、唐木みゆ:イラスト/誠文堂新光社)を通じて、知識の幅を広げてみてはどうだろうか。

 本書では豊富なカラー図版で日本絵画を引用しながら、絵の見方や、描かれているテーマ、その背景などについて漫画やイラストを使って分かりやすく紹介している。日本絵画でよく用いられるテーマを楽しく学ぶことができれば、今後さまざまな絵画展を鑑賞する際にもすぐ役立つはずだ。ではどのような作品が紹介されているのか、早速ピックアップしてみよう。

■『万葉集』で有名な歌人・柿本人麻呂が意味するものは?

 次の元号「令和」が発表されて以来、その典拠となった『万葉集』がにわかにクローズアップされている。日本最古の和歌集としても知られ、まさに日本古典の代表格だ。したがって美術作品のテーマとしても多く用いられてきた。

 中でも歌人・柿本人麻呂は、藤原信実などの絵師たちによって、たびたび古くから描かれてきた。人麻呂は『万葉集』における代表的歌人であり、歌の巧みさから「歌聖」とも称される。ゆえに、鎌倉時代には和歌の上達に霊験のある神様として信仰された。時の太政大臣・藤原兼房は、夢に現れた人麻呂の姿を絵師に描かせ、それを毎日拝んだおかげで歌が上達したという。

 さらに江戸時代になると朝廷から「正一位柿本大明神」の称号と位を授けられ、人麻呂は最高ランクの「神」のひとりとなった。つまり、人麻呂の絵は、「神の姿絵」であり、信仰の対象でもあったのだ。この頃になると民間では歌以外にも、「火除け」や「安産」の神様としても信仰され、浮世絵などにもたびたび描かれる人気の「テーマ」となった。

■「鬼」は単なる悪や恐怖の存在ではない

 日本絵画は、現実に存在するものだけでなく、「空想の霊獣や怪異」の類も好んで題材としてきた。特に「鬼」という存在は、多くの絵師たちが繰り返し描いてきた鉄板のテーマ。なぜ選ばれたのかといえば、「鬼」とは単に妖怪変化を指すだけではなく、実にさまざまな“意味”を内包しているからだという。

 本書では、よく描かれる鬼の姿を分類して、「土地の神や伝説上の存在が仏教や修験道の影響を受けて『鬼』『天狗』とよばれるようになった存在」「仏教説話に登場する鬼」「人や物が変化してなったもの」「中国の物語や伝説に由来する鬼」の作品例を挙げている。有名なところでは、例えば「酒呑童子」のような人の災いとなる鬼のほか、「地獄の獄卒」として人間を責める鬼の姿などが思い浮かぶ。前者は悪鬼として、後者は悪人を責めることで悪行を戒める存在として描かれている。鬼が善悪どちらの面も併せ持つからこそ、絵に深い意味を与えられるテーマとして重宝されてきたようだ。

 先述したように最近の美術展では音声ガイダンスが用意されていることも多いので、我々はさしたる知識がなくとも日本の古典を描いた絵を楽しむことができる。しかし、そのように得る「一時的な知識」はすぐに失われてしまうことも多く、本当に絵画の意味を理解することにはつながらないこともあるだろう。せっかく美術作品を目にする機会があるのだから、やはり細大漏らさずにアートを楽しみたいもの。事前に少しでも知識を仕入れておけば、絵画展をより深く感じることができるはずだ。

文=木谷誠