「令和」になる前に読みたい、古き「昭和」の時代を感じさせる復讐サスペンス!

文芸・カルチャー

2019/4/27

『夜の塩』(山口恵以子/徳間書店)

 昭和30年。戦後の混乱もようやく落ち着き、人々の生活に少しずつ日常が戻ってきた時代である。だが、戦争の傷跡は深く、社会の裏側には、今では考えられないほどの深い「闇」が存在していた時代でもあった。

 そんな中、名門大学を卒業し、英語教師として働いていた十希子に「母の死」という突然の悲劇が降りかかる。しかもその死は、汚職事件の渦中にある男との無理心中というスキャンダラスなもの。いわれのない誹謗中傷の中、教師の職も辞した十希子は一人、事件の真相解明、そして復讐を決意する。

『夜の塩』(山口恵以子/徳間書店)のこうした作品設定は、松本清張の社会派推理小説を彷彿とさせる。著者・山口恵以子を「食堂のおばちゃん」シリーズでしか知らない読者は少し面食らうかもしれない。しかしながら、著者は第20回の松本清張賞受賞作家。本格派の推理小説家であり時代小説家でもある。

 そんな著者が昭和30年の時代背景を綿密に描くことで、読者はどんどん作品世界に引き込まれていく。「置屋(芸者や遊女を抱えている家)」「赤新聞(低俗な興味本位の新聞)」「ページ・ボーイ(内巻きになった前上がりのヘアスタイル)」など、今となっては忘れ去られた単語から、過ぎ去りし「昭和」の情景が鮮やかに浮かび上がってくるのだ。

 佐藤栄作の逮捕直前まで発展した「造船疑獄事件」や検察の派閥抗争に巻き込まれた立松和博の「売春汚職事件」など、実際にあった当時の事件をベースにすることで、「昭和」史の暗部もしっかりと描かれている。歴史好きなら関連情報の検索が止まらなくなること請け合いである。

 もちろん、ストーリーも見逃せない。平凡な女教師である十希子が、徐々に真相に迫るにつれ「変わって」いく様は、女性の強さと怖さを存分に感じさせる。衝撃のラストまでの、十希子の愛憎から復讐に至る葛藤は、まさに「昭和」のサスペンスドラマ。「令和」を迎える今だからこそ、過ぎ去りし「昭和」を堪能するために読んでおきたい一冊だ。

文=中川純一