ワンクリックの裏側の真実に驚愕!Amazon労働現場の実態が明らかに!

業界・企業

公開日:2019/4/23

 インターネットが普及し、ネットショッピングが当たり前の時代になった。私自身も利用者の一人で、自宅近くに書店がないため、特に書籍はネットで注文することがほとんどだ。パソコンやスマホの注文ボタンをワンクリックするだけで数日後には商品が手元に届くとは、数十年前には考えられなかっただろう。「お取り寄せ」という言葉が当たり前のように飛び交う時代では、送料さえ払えば距離は関係なくなってきている。

 そんな便利なネットショッピングだが、その裏側に隠された真実を暴いた本を読んで衝撃を受けた。

 著者は英国人ジャーナリストのジェームズ・ブラッドワース氏。大手紙『インディペンデント』や『ガーディアン』などにもコラムを連載する実力派だ。そんな彼が、実際にとある企業に潜入し、その体験や舞台裏を赤裸々に綴ったのが本書だ。彼が実際に働いたのは、日本でもおなじみのAmazonの倉庫やウーバーのタクシー、訪問介護、コールセンターなど。彼はそこで信じられない体験をし、社会の表舞台からは見えない労働者たちの現実を暴露したのだ。

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 あらゆる商品を購入することができるAmazonは、言わずと知れた世界的大企業だ。アメリカにおいては、2018年に112億ドル(日本円で約1兆2400億円)もの利益を生み出し、さらに成長を続けている。著者が潜入したのはイギリス・スタッフォードシャー州ルージリーにあるAmazonの倉庫で、インターネットから注文が入った商品を一つ一つピックアップする業務に配属された。勤務初日、彼が驚いたことの一つが、労働者のほとんどが外国人だったこと。特に、東欧系の外国人が多く、イギリス人の姿はほとんどなかったそう。そのため、他の労働者たちから、「なぜイギリス人がこんなところで働いているのか?」と散々質問攻めにあったという。

 実は、Amazonの待遇には悪評が立っているようで、実際にひどい現場だったと著者は語る。給与が正しく支払われない(クレームをつけても振り込まれるのはだいぶ先になる)、実質的に休憩時間がない(足りない)、遅刻や欠勤ごとに罰則ポイントが科せられるといった、基本的な労働条件が整っていない環境なのだ。しかも、遅刻や欠勤については、労働者本人に否のない病気やケガ、天災などの仕方ない場合でも容赦ない。罰則ポイントが6ポイントになると即刻リリース(解雇)となる。

 また、一般的なシフトの場合、労働者には30分の休憩が1回、10分の休憩が2回与えられている。しかし、サッカー場10面分の広さの倉庫を移動して休憩エリアにたどり着くまでに7分はかかるというのだ。これでは往復の移動時間を差し引いたとして15分ほどの休憩しか取れないことになり、体力勝負のピッキングの仕事では不十分といえるだろう。Amazonの倉庫ができた当初は、地元のイギリス人も採用されたそうだが、仕事を始めてすぐに辞める人が後を絶たなかったという。そのため、常に人員募集が行われ、低賃金や最悪の労働環境でも文句をいわずに働いてくれる海外からの労働者が主体の職場となったのだ。

 2017年には、同倉庫で大規模な火災が発生したが、その理由は労働者による放火だったという。放火の理由は、チームリーダーに休日申請したが却下され、逆上してライターで火をつけたというもの。この放火によって、Amazonは10億円を超える被害を受けてしまった。本書の中で、著者は「人間の否定」という言葉を使っている。はじめは言葉が強すぎると思ったが、読み進めていくうちにその重みをずっしりと感じることになった。

 どの体験もイギリスにおいてのものだが、これはけっしてイギリスだけの話ではないと著者は警鐘を鳴らす。日本は移民の受け入れに積極的ではないため、その実態とは大きく異なるかもしれないが、資本主義や管理社会が行きすぎてしまうことで何らかの弊害が出るのは確実だ。特に、持つ者と持たざる者との格差の広がりは、すでに見過ごせない現実となっている。

 資本主義の恩恵を受けながらも、裏側にある「真実」から目を背けてはならないだろう。

文=トキタリコ