『キミスイ』作者・住野よるが描く、中学校の卑劣ないじめ…読者は『よるのばけもの』をどう読んだのか?

文芸・カルチャー

公開日:2019/4/28

『よるのばけもの』(住野よる/双葉社)

 どうして、人は集まると、誰かを爪弾きにしたくなるのだろう。誰かひとりを敵とみなすことで、結束しようとしてしまうのはなぜなのだろう。どうして、世の中からいじめはなくならないのだろう。いじめを根絶するにはどうしたら良いのだろう。

 そんないじめの問題に悩む全ての人に読んでほしい本がある。それは、『よるのばけもの』(双葉社)。『君の膵臓をたべたい』の著者として知られる、住野よる氏による傑作だ。この本は、「夜になると化け物になる」という突飛な設定の男子中学生を主人公としながらも、描かれているのは、いじめが蔓延る中学校のリアルな姿。クラスの空気を支配し、いじめを扇動する人。空気を読み、クラスメイトをいじめてしまう人。そんな中で、すべてを見て見ぬふりする人…。次第にエスカレートしていくいじめの有り様は、読む者にいじめの恐ろしさを感じさせる。

 主人公は、中学3年生の男子生徒・安達。彼は、夜になると、8つの目、6つ足、4つの尾を持つ化け物になってしまう不可思議な体質を持っている。ある日、化け物になった姿で、忘れ物を取りに夜の学校へと忍び込んだ彼は、誰もいないと思っていた夜の教室で、クラスメイト・矢野さつきに出会う。おまけに矢野は、すぐに化け物が安達だと見破ってしまい…。

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 クラスメイトたちからいじめられている矢野と過ごす、夜の学校での時間。矢野は、言葉は吃っているし、鈍いし、空気が読めない、馬鹿な奴であるはず。だが、彼女と会話する中で、次第に安達は彼女への印象を変えていく。しかし、矢野へのいじめは、次第にエスカレートしていく。場を支配する空気。生徒たちの間のヒエラルキー…。矢野に救いはあるのか。安達にできることは何なのか。

 この壮絶な物語を読書メーターユーザーたちはどう読んだのか。

テーマは中学でのいじめ。クラス全体からいじめを受けている矢野と、それに対し心の中では疑問を感じている安達。しかし言葉や行動に移すことはできない。そして彼は夜の間だけばけものになり矢野と会話を始める。一人の言動が全体のバランスを崩すという感覚は多かれ少なかれ誰にでもあると思う。特に中学生くらいだとクラスが世界の中心だったりするから、ことは余計に複雑になる。「昼と夜、どちらが本当の顔?」の問いに、安達がどのように答えられるか。(DEE

これで住野よるさんの本を全部読んだかな? これが一番好きだった。このクラスはほんとにおかしい。みんな歪みすぎていて、第三者から見れば矢野さんが一番まともな人間だと思う。なんておかしな子なんだろうと読み始めは感じたけれど、読んでいくうちに彼女がとても思慮深い人間なのだと分かった。強そうに見えて繊細な彼女のことを抱きしめてあげたいと思った。私もあっちーと同じ、行動できない人間で周りとずれたくない人間だから彼の気持ちがとてもよく分かる。一歩踏み出せた彼は偉いと思う。少しずつ矢野さんの心の拠り所になってあげてほしい(緋夏

再読。夜になると化け物になる。すごいぶっ飛んだ設定だと思う。でも、妙にリアルに感じた。スクールカーストってどこの学校にもあるんだろう。きっと。自分の立ち位置をわかっていないといけない。住野よるさんの作品は、どれもすごく共感できる。ぜひ、君膵に続いて、この作品も映画化してほしい。できれば、実写ではなくアニメで。(美葉

 いじめをしている人、いじめを受けている人、近くでいじめが行われているのを知りながらも、どうすることもできないでいる人…。何らかの形でいじめに関わったことのある人であれば、この物語は心に突き刺さるに違いない。そばでいじめを見たことがある人、体験したことがある人、すべてに読んでほしい作品だ。

文=アサトーミナミ