「空気読めよ!」と、思ったら。職場の外国人と歩み寄る異文化理解の教科書

ビジネス

公開日:2019/5/7

『異文化理解の問題地図』(千葉祐大/技術評論社)

 外国人労働者が目に見える形で増えている。人手不足が叫ばれる飲食店や小売業、介護業界などで積極的な雇用が目立つ。さらに外国人観光客の激増にともなって、観光地での外国人労働者も多く見かけるようになった。もはやグローバル化は一部の大企業だけでなく、日本全体で起きているようだ。

 そこで生じる問題がある。外国人の部下との仕事のトラブルだ。育った国が違う“異文化”が影響して、日本人同士では起きないトラブルに悩む上司が増えつつある。

「外国人の部下って面倒くさいなぁ…」

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 そう悩んだらぜひ『異文化理解の問題地図』(千葉祐大/技術評論社)を読んでほしい。実はそのトラブル、上司であるあなたに問題があるかもしれない。

■聴き手に責任を押しつけるコミュニケーションスタイルがトラブルを生む

 外国人労働者の数は、2018年10月時点で約146万人。わずか5年で倍以上に増えた。ビジネスマンとして働く限り、こうしたトラブルは誰にでも起きる可能性がある。分かりやすい例を本書より抜き出してみたい。

鈴木部長「張さん。例の報告書、できるだけ早くまとめておいて。今度の部長会議で急きょ私がプレゼンすることになったんだ。それと時間があったらプレゼン用のパワポも作っておいてね」

張さん「はい、わかりました」

~2日後~

鈴木部長「資料できた?」
張 さん「いえ、まだやっていません」
鈴木部長「えっ、どこまで終わったの?」
張 さん「これからやります」
鈴木部長「何やってんだよ!“できるだけ早く”って言ったじゃないか!」
張 さん「月次資料を終わらせてからやろうと思っていました」
鈴木部長「そんなの後回しでいいよ!もしかしてパワポ資料もまったく手つかずなのか?」
張 さん「はい。部長は“時間があったら”と言いましたから」

「うそだろ~」と頭を抱えてイライラしそうなこのケース。おそらく多くの上司は張さんに問題があると考えるだろう。しかし著者で外国人コンサルタントの千葉祐大さんは「鈴木部長が悪い」とバッサリ切る。

 その理由は伝わりにくい言葉を多用すること。「できるだけ早く」「時間があったら」という言葉は、日本人だけに意味が通じる指示用語だ。行間を読む文化がない外国人労働者には向かない。具体的にはっきり指示をしよう。

 多くの日本人上司は、「うまく意思疎通が図れないのは、もっぱら部下の能力不足に責任がある」と考える傾向にある。外国人の部下とトラブルが絶えない根本原因は「聴き手に責任を押しつけるコミュニケーションスタイル」にあるのだ。

 本書のこの項目を読んでいると、日本の職場からパワハラが消えない理由が嫌でも感じ取れてゲンナリする。

■日本人は世界屈指の空気を読む人種だからこそトラブルが起きる

 さらに外国人部下のいる職場でありがちなのが「空気が読めない」こと。これから繁忙期に入る職場で「春節だから長期間帰らせてほしい」と上司に相談する中国人。いつ何が必要そうか自分で空気を読んで準備して欲しいのに、堂々と「今から企画案を考え始める」と言うアメリカ人。どちらも本書の事例で滑稽に紹介されている。

 しかし彼らは一時期日本で流行語になった「KY(=空気読めない)」ではない。どちらかというと日本人に空気を読む能力が備わりすぎているのであり、外国人にそのハイスキルを求める方が酷なのだ。だから、外国人部下のKY行動は、空気を読めないから何をしたらいいかわからないのではなく、わからないから空気が読めない状態なのだ。

 そこで日本人上司が取るべき行動は、職場に漂う「暗黙のルール」を「見える化」すること。さらになぜそのルールが存在するのか、理由を「明確化」すること。またルールの「周知」も必須だ。

 本書によると日本人は世界屈指の空気を読む人種。誇らしく感じる一方で、育った文化の違う人々と働くコツをつかむ重要性を痛感する。

■チームワークを不全にする外国人同士の「相性の悪い組み合わせ」

 本書よりもう1つだけ、起きがちなトラブルの事例を取り上げたい。外国人同士でチームを組んだとき、なぜかチームワークがバラバラで仕事が上手に回らない「チームワーク不全」が起きるのだそうだ。これが起きる理由はいくつかあるが、特に目を引くのが本書90ページにある外国人同士の「相性の悪い組み合わせ」だ。

 たとえば「中国人×台湾人」は相性があまりよろしくない傾向にあるそうだ。歴史的経緯から、台湾人が中国人を敬遠する節がある。これは「中国人×香港人」「中国人×ベトナム人」も同じ。また台湾人は、中国人と“いっしょくた”にされるのを最も嫌がるという。

 本書のこの項目は、決して面白がってはいけないが、国同士の関係が見えて興味深い。もし外国人同士で組んだチームが“不全”に陥ったときは、全員の国籍や出身地の歴史・文化について確認しよう。

 同じ日本人同士でも、北海道で生まれ育った人、東京で生まれ育った人、沖縄で生まれ育った人、それぞれに歴史があり、風土があり、特有の考え方がある。だから同じ日本人同士でも出身地によって働き方は千差万別。

 こう考えると、異文化で育った外国人と働き方が違うのは、もはや当然だ。これを理解することなくトラブルが起きた責任を一方的に外国人部下に求める上司は、現代社会にあまり向いていないのかもしれない。

 異なる文化を持つ人達との健全な人間関係は、お互いを知って理解するところから始まる。とてもありきたりな言葉だが、外国人労働者が増える昨今において、この重要性を再確認したいところだ。

文=いのうえゆきひろ