「悲しいページ」が想像以上の大きな共感を呼んだ! 60万部超えの絵本『ちいさなあなたへ』誕生秘話

文芸・カルチャー

2019/5/8

 2007年にアメリカで、2008年には日本で発売され、多くの読者を涙させた絵本『ちいさなあなたへ』(原題『Someday』)。母親でいることの幸せや葛藤を綴ったこの絵本は、これから母になる女性、子育てに奮闘中の女性、そして年老いた母に思いを馳せる女性、と幅広い世代から支持を得ています。その作者であるアリスン・マギーさんが4月に初来日。この本に込めた思いや、制作秘話を語ってくれました。

アメリカと日本、国は異なっても親としての願いは同じ

『ちいさなあなたへ』(アリスン・マギー:著、ピーター・レイノルズ:イラスト、なかがわちひろ:翻訳/主婦の友社)

『ちいさなあなたへ』は、子どもが生まれ、その子が喜びや困難を経験しながら親元を巣立っていく、という親としての人生をシンプルな言葉で綴った絵本です。発売から10年以上が経ち、今もなお支持され続けていることを、「とても驚き、嬉しく思っている」というアリスンさん。

「日本とアメリカは生活も文化も生活様式も違う国です。私は日本人じゃないから、なぜこの絵本がこれほど受け入れられたのかはっきりとはわかりません。アメリカの読者からも、“この絵本を読んで泣きました”という感想をもらうんですが、私自身も自分の絵本を読んで泣きました。それはなぜかと考えると、自分の奥深くに降りていって、そこから言葉を絞り出すようにして心からの言葉で書いた本だからなのではないかと思います。
 日本とアメリカは、とても異なる国ですが、自分の子供が人生を存分に生きて欲しいという親としての思いは国が違っても変わりません。だから、日本の方々にも受け入れてもらえたのではないかと思います」。

ある日、眠っている娘の姿を眺めたあと、キッチンで一気に書き上げた

『ちいさなあなたへ』は、アリスンさんがドアの隙間から幼い娘の寝顔を眺めていたときに、「この子がどんな夢を見ているのかは、私にはわからない。でもこの子が大きくなったらどんな風になっていくのかを想像することはできる」と感じ、階下のキッチンに降りて一気に書き上げた詩が元になっています。

 ちょうど同じ時期に大好きだった祖母を亡くし、祖母との素晴らしい思い出、愛情深く育ててくれた母のこと、そして自分自身が母になったことなど、世代間と世代の途切れなきつながりに思いを馳せたというアリスンさん。

「親と子の永遠のつながりの中の、他者に対する深い愛情、思いやる気持ち、夢見る気持ちをこの詩で表現したいと思いました。そして、5年という年月をかけて言葉を研ぎ澄まし、ピーター・レイノルズの素晴らしい挿絵とともに絵本に仕上げていきました」。

どうしても入れたかった「悲しいページ」に共感の声が!

 アリスンさんの作家としての一番の挑戦は、この1冊の絵本の中にどうやって“人生のすべて”を表現するかということでした。

「親は子どもが幸せな人生を送ることを願うものですが、人生は決して美しいだけでは終わりません。心が張り裂けそうなことや傷つくことも子どもが豊かな人生を歩むうえで必要なこと。ですから、私はあえてこの絵本に人生における悲しいページを入れたのです」。

はじめは編集者からは反対されたが、絶対に必要と主張

 実は、アメリカの編集者からは、上の2場面は「要らないのでは?」と指摘を受けたのだそう。ところがアリスンさんは、「逆にとても大切で、絶対になくしたくない」と主張しました。

「”かなしい しらせに みみを ふさぎたくなる ひも あるだろう。”というページが読者の心を激しく揺さぶるのは、これが人生の真実だからです。本当の悲しみや辛さを理解できないと、逆に本当の幸せや喜びも理解できません。子どもたちに、薄っぺらの人生を歩ませるわけにはいきません。母親としての私自身の心に留めておくためにも、絶対にこのページが必要だと思ったのです」。

 結果、この「悲しいページに号泣した」「親としての葛藤を感じた」など読者の声が、予想以上に多く寄せられることになりました。

母であるすべてが詰まった1冊は、もはや母の日のギフトの定番に

 成長を見守り、辛抱強く育ててくれた母に感謝を込めてという気持ちで、この絵本を母の日の贈り物にする人がとても多いそうです。担当者によると、毎年、母の日の頃に倍の売り上げになるのだとか。

 喜び、悲しみ、葛藤、子どもへの無条件の愛……親であることのすべてが詰まっているこの絵本は、自分自身の年齢や環境、子どもの成長に合わせて何度も読み返したくなる1冊です。