芸術家の人生そのものがアート! 息遣いが残る全国のプライベート美術館で贅沢な時間を過ごしたい

文芸・カルチャー

公開日:2019/4/27

『人生も作品! 芸術家たちのプライベート美術館』(講談社:編/講談社)

 これからの大型連休に旅行やお出かけの予定を立てている人も多いだろう。レジャーやアクティビティで体を動かすのもよいけれど、少し遠出をして美術館をのんびり巡るというのもまた乙なもの。そんな美術館巡りを計画する際にぴったりの書籍が、『人生も作品! 芸術家たちのプライベート美術館』(講談社:編/講談社)だ。

 本書は、画家や彫刻家、写真家、陶芸家など、さまざまなアートのジャンルの日本人芸術家26人と、その芸術家にゆかりのある日本各地の美術館を30館(内1館は現在休館中)紹介するもの。それぞれの芸術家と代表的な作品についてわかりやすく解説する次のページには、その作品などが見られる縁の深い美術館のガイドが掲載されているので、お出かけ前に最低限知っておきたいポイントをすんなりと押さえることができる。お目当ての美術館へ出かける前の予備知識を得るためにも役立つだろう。

 本書のタイトルにある「プライベート美術館」とは、特定の芸術家の作品や資料を所蔵・公開している施設のこと。中にはその芸術家本人の家やアトリエを活かして展示しているものもあり、規模は小さくても、ひとりの芸術家と作品に特化している分、その世界観や込めた情熱がひしひしと感じられるのは、かけがえのない魅力だろう。本稿では、本書の中から日本を代表する2人の芸術家とその関連美術館を紹介しよう。

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■職業は「人間」。岡本太郎――

「芸術は爆発だ」の言葉はあまりにも有名。大阪万博を象徴する立体作品『太陽の塔』のイメージが強いが、油彩画をはじめとした平面作品も多く、ジャンルを問わず幅広く精力的に活動を続けた。本書によると、本業は何かと問われた際に、「強いて言えば人間」と答えたという。岡本太郎の言葉や思想は、作品同様にインパクトが強いのだ。

岡本太郎記念館(東京都港区)

 東京都港区にある、岡本太郎の自宅兼アトリエだった空間が、現在は美術館として訪問できる。館内も写真撮影可能で、庭にある立体作品には手を触れてもOKという自由度の高さだ。岡本太郎自身が愛用した筆や刷毛、使いかけの絵の具にいたるまで当時の雰囲気を残して保存・公開されているアトリエの迫力には、ファンならずとも圧倒されるはずだ。靴を脱いで上がるスタイルも、美術館としては斬新。

■リアリズムを極めた写真家、土門拳――

 被写体のありのままを見つめる、徹底したリアリズムを提唱した写真家。ライフワークにもなった『古寺巡礼』や、『ヒロシマ』は世界的にも非常に高く評価された。社会の厳しい現実をリアルに捉える一方、日本文化の本質に迫る写真を数々のこすなど、作風の幅は広い。『筑豊のこどもたち』シリーズでは、厳しい現実の中でも健気に生きる子どもたちに焦点を当て、写真集は10万部を超えるベストセラーとなった。

■土門拳記念館(山形県酒田市)

 土門拳の生まれ故郷である山形県酒田市に、1983年に開館した酒田市立の美術館。約7万点におよぶ、土門拳の全作品を所蔵しており、主要展示室に加え、毎回決められたテーマに沿って作品が選りすぐられる2つの企画展示室がある。土門拳と深い親交のあった建築家の谷口吉生による設計、彫刻家のイサム・ノグチらのオブジェ展示も見どころだ。写真と建築、さらに酒田の自然との融合をテーマに設計されたスタイリッシュな空間にも注目したい。

 ページをめくりながら、興味を引いた芸術家の作品を見に美術館に足を運ぶのはもちろんのこと、週末や連休の旅行先と関連付けて訪問先にある美術館を探してみるのもおもしろいだろう。遠出をするのはちょっと億劫…という人も、巻末にある美術館データに目を通すと、自分の住んでいる身近な地域にある美術館が見つかることもあるので、ぜひ本書でチェックしてみてほしい。

文=上原純