担当編集者を殺してしまった売れない作家。“ゴーストライター“として起死回生を狙う男の行く末は?

文芸・カルチャー

2019/5/3

『指名手配作家』(藤崎翔/双葉社)

 担当編集者というものは、ときにやさしく、ときに厳しい存在だ。こちらを褒めて気分良く仕事ができるようにしてくれることもあるし、納品した原稿が真っ赤になって戻ってくることもある。しかし、いずれにしても感じるのは、「二人三脚」で仕事に取り組んでいる、ということ。それはぼくのようなライターに限らず、“作家”の場合も同様だろう。

『指名手配作家』(藤崎翔/双葉社)は、そんな編集者との関係がこじれてしまったことに端を発する、サスペンス小説だ。

 主人公・大菅賢(おおすが・けん)は、売れない作家である。その日も、担当編集者・添島茂明(そえじま・しげあき)から、「あなたこのままじゃ、一度も売れずに廃業ですよ」と詰められていた。

 この添島は“新人クラッシャー”とも噂されている、強面の編集者。大菅に対する当たりが厳しく、責め立てるような口調で辛辣な言葉を浴びせかける。

 そんな添島に反発する大菅。打ち合わせの場を思い切って退席するも、追いかけてきた添島と揉み合いに。そして、つい添島を突き飛ばしてしまうのだが、打ちどころの悪かった添島は、そのまま死亡してしまうのだ。

 そこからはじまる大菅の逃亡劇。どこにも行き場のなくなってしまった大菅は、やがて死を決意するも、そこで自殺志願者である桐畑直美(きりはた・なおみ)と出会う。そしてふたりは、人生を変えるための大博打を打つことに。それは、大菅が“ゴーストライター”となり、直美を作家デビューさせるというもの。そこで手にした金と地位で、新たな人生をスタートさせようというのだが――。

 本作はサスペンス仕立てになっているが、とてもフランクな文体が特徴的だ。人を殺害してしまった大菅、その犯人を匿う直美。ふたりの状況は絶望的ではあるものの、どこかノリが軽いため、まるでブラックなコメディ劇を観ているかのような印象を受ける。死のうとしていた直美に対し、大菅が「一度だけセックスしたい」と懇願するくだりなんて、最低だとわかりつつも思わず笑いがこぼれてしまった。

 もちろん、サスペンスとしての盛り上がりも随所にちりばめられる。華々しくデビューしたものの、作家として振る舞うことに苦労する直美。表舞台に立てる直美を羨む大菅。ひょんなことから「ゴーストライター疑惑」の目を向けられるふたり。作中では何度も小さなピンチがふたりを襲い、いかにそれを乗り切るかがスピード感をもって描かれる。

 そして、ラストに待ち受けているのは、サスペンスならではのどんでん返しだ。そのエピソードを読んだうえで、あらためて作品を振り返ってみると、細かな伏線の妙に唸らされるだろう。

 二人三脚の相棒が、いつしか憎悪の対象になっていた。これは編集者と作家の関係に限ったものではない。人間関係は、ひょんなことからこじれてしまう。そして、人生は思いがけない方向へと転がってしまう。本作を世にも恐ろしい物語として読むのか、あるいは実際にはありえないコメディとして読むのかは、読者のスタンス次第だ。

文=五十嵐 大