美智子さまに憧れて――陛下を支え続けた60年を秘蔵写真とともに振り返る

社会

公開日:2019/4/30

『皇室の歴史とともに、60年――あの日の美智子さま』(渡邉みどり:監修/主婦の友社)

 いよいよ今上天皇の退位の日が近づいてきた。新元号発表に続き、多数のタレントや文化人が出席した「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」が開催され大きく報道されるなど、国全体の関心事となっているが、一つの時代が終わることの感慨をしみじみ味わっているかたもいることだろう。

 現在、書籍の世界でも皇室関連本は人気だが、よく見かけるのはいわゆる天皇制や皇室の謎に迫る本。そんな中に、静かに今上天皇の時代を振り返ることができる本があるのはうれしいもの。『皇室の歴史とともに、60年――あの日の美智子さま』(渡邉みどり:監修/主婦の友社)は、長らく陛下を支え続けた皇后・美智子さまを主人公に、90年の歴史を誇った婦人誌「主婦の友」が取材活動を通じて集めた秘蔵写真の数々を紹介しながら美しく振り返る贅沢な一冊だ。当時の記事もそのまま紹介され、人々が美智子さまに向けた「憧れ」を、平成の終わりにあらためて実感する。

 昭和32年夏、軽井沢のテニスコートで時の皇太子さまに見初められた正田美智子さんという一人の女性は、昭和34年「世紀のご成婚」を経て皇太子妃・美智子さまに。ご成婚報道で白黒テレビが爆発的に普及したり、パレードには沿道に53万人がつめかけたり、民間から誕生したプリンセスは「ミッチーブーム」を巻き起こす。なにより人々が夢中になったのは、美智子さまの清楚な美しさと、聡明さだった。

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昭和33年(1958年)、ご婚約発表をうけ、天皇皇后両陛下へのご挨拶に向かわれる美智子さまとご両親。「こんなにプリンセスのようなドレスが似合う日本人はいない!」と、いまどき女子も思わず驚嘆する可憐さだ。

 振り返ってみればお二人がご成婚された昭和34年は、終戦からまだ14年弱とはいえ将来を希望的に考えられるようになってきた高度経済成長の時代だ。その頃の女性たちにとって美智子さまは、豊かな新時代の象徴であり、まぶしいほどの「憧れ」だったのだろう。当時の「主婦の友」では、美智子さまが皇室に新しく導入したライフスタイルをしばしば記事にしている。これまでの慣例(しかも皇室という日本の最古の旧家の)を上手に自分らしいスタイルに変えられていく美智子さまの姿は、多くの女性たちに未来への夢を与えたに違いない。

新しく完成した東宮御所には、美智子さまの強いご希望で専用キッチンが設けられた。ふだんは大膳(お勝手係)がお食事の支度をするが、美智子さまがお子さまがたのお弁当を作られることも。ご公務で多忙な中、限られた時間には思いっきり愛情を注ぐ。美智子さまはワーキングマザーでもあるのだ。

昭和38年2月号の付録『赤ちゃん1000問答』から「浩宮さまの成長アルバム」。体重などのデータはもちろん、育児方法も細かく紹介されている。乳人(めのと)制度を廃止し、母乳育児を実践された美智子さまの子育ては、多くのママたちのよき「お手本」だったのだろう。

 実は過去3回、「ベストドレッサー賞」を受賞されている美智子さまは、女性たちの羨望の的・ファッションアイコンでもあった。当時の庶民には縁遠かったオートクチュールも見事に着こなしてしまう美貌とセンスは、いま見ても惚れ惚れしてしまう。皇太子ご夫妻時代からあらゆる国をご訪問されてきたが、訪問先への配慮を忘れない堂々たる日本のプリンセスは、世界の要人を魅了した。

昭和36年、アルゼンチン大統領主催の晩さん会に、華麗なローブ・デコルテ姿で。海外のご訪問では美智子さまに和装のリクエストがくることも多かったという(本には和装のお写真も多数紹介されている)。 

 皇室に入った民間人として、ご苦労は並大抵のものではなかったことだろう。だが常に笑顔で、国民と皇室を繋ぐという重責を担われてきた美智子さま。日本の国民がなぜ皇室を大事に思い、さらに次世代にもその思いをつないでいけるのか。その理由の一つに「美智子さまの存在」があったことは間違いない。本の中の凛とした美智子さまのお姿にときめきつつ、その存在の大きさを実感し、あらためて感謝の気持ちを覚えるのだ。

文=荒井理恵