コアなテツから非鉄まで楽しめる、55年前の鉄道エッセイが電子書籍に!

小説・エッセイ

公開日:2012/4/20

お早く御乗車ねがいます

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:阿川弘之 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

大正9年生まれの阿川弘之は大の鉄道好きで、『きかんしゃやえもん』の著者としても知られている。鉄道にまつわる著作も数多い。本書は雑誌『旅』に掲載された紀行文を中心に、昭和28年から32年にかけて各誌に書いたエッセイを集めたもの。初版の発行は昭和33年。それが2011年に文庫新装版として蘇り、このたび電子書籍化された。

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なんせ昭和30年前後のエッセイなので、登場する鉄道車両がすごい。第一章は「つばめ」に乗った話なのだが、もちろん九州新幹線ではない。「山陽特急つばめ」なのだ。鉄分ゼロの身としては、そんな特急があったのかというところから驚いてしまう。が、そんなところで驚いていては本書は読めない。

どのジャンルでもマニアの語彙というのはわからないものだが、たとえば本書にはこういう記述がある。
〈(東京発「銀河」の)編成はご承知ように前から「スニ三〇の七五」「マイネ四〇の一七」「マイネ四一の九」〉
…いや、ご承知じゃないし! スニとかマイネとかは車両の型式名なのだが、素人には何かの呪文としか思えない。
「一等から格下げになった二等寝台車は未だマイネの記号のまま黄帯を巻いていた」
というくだりなど、日本語なのにまったく意味がわからないぞ。

ところが、これが「わかる」人には堪らない(らしい)のだ。好事家同士なら皆まで言わずとも通じる、それが心地良いというのはどのジャンルでも同じこと。そしてそれを読む鉄分ゼロの私も、「著者が子どものように楽しんでいる」ということががんがん伝わってきて、こちらも楽しくなる。中に知っている車両名が出てくると「おっ」と思うし、当時の車両はこうだった、車掌さんはこうだったという情報は新鮮で「へえ」と思わされる。列車の中から車掌さんを介して電報が打てたなんて、うんうん、確かに聞いたことある(トシがばれる)!

本書は鉄道話だけじゃない。まだ日本人が自由に海外に行けなかったこの時代、外遊の機会を与えられてヨーロッパに行った話(やっぱり鉄道を見てるけど)、船旅のおもしろさ、温泉について、旅行客のマナー、国鉄のサービスについてなど、「当時はこうだったのか」と「これ、今と同じだ」が入り乱れ、ぐいぐい読ませる。半世紀前以上前の文章で注釈もないので意味のわからないところはあるだろうが、そこに滋味があるし、それを調べるのがまたおもしろいのだ。調べたい、知りたいという気持ちにさせてくれるのは、エッセイに思い入れと力がある証拠。

ゴールデンウィーク、鉄道旅行を予定してる方は、ぜひ本書を端末に入れておきたい。今とはまったく違う車両が、今とは違う乗客を乗せて、今と同じ路線を走っている。心地良いタイムスリップが味わえる1冊だ。


目次を見ただけで鉄ちゃん心が掻き立てられるラインナップ。鉄道だけでなく船旅、ドライブ、バスの項目も。もちろん目次から該当ページへ一気に飛べます

最初のページからいきなり「小説家の中で汽車のことに異常な関心を持っているのは、(内田)百閒老先生を除いては、おそらく自分ひとりだろう」とテツ宣言!