娘、嫁、妻、母。“普通の女性”の60年の人生記録から学ぶ、自分を輝かせる生き方

暮らし

更新日:2019/5/15

『女子人生のエッセンス』(一糸一代/文芸社)

 昭和、平成、令和。時代の移り変わりとともに、女性の家庭、社会で求められる役割も変わり、これからも変わっていくだろう。

 昭和に生まれ、平成に結婚。2018年10月には余命半年を宣告された60代女性の人生を書いたエッセイ『女子人生のエッセンス』(一糸一代/文芸社)には、“普通の女性”として60余年生きた1人の女性の家庭・仕事で求められた役割、その時々のリアルな心情がありのままに綴られている。

 著者の一糸一代さんは、有名人でも作家でもなく、本書が処女作。全くの一般人が本を出すことになったきっかけは、妊娠した一人娘の今後の参考に、と自分の人生経験を語ったとき、「お母さんの経験は半端ないから、私だけではなく今の女性たちにも知ってもらえたら、きっとみんな少しは安心すると思うよ」と言われたことだという。

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 一糸さんは、旦那の妻として、旦那の実家の嫁として、娘の母として、両親の娘として、人生のその時々で求められる役割に向き合い、全うしてきた。家事を全くしない自分勝手な旦那、ワンオペ育児、嫁姑問題。専業主婦から脱却して就職し、離婚しても1人で娘を育てる道を模索する日々。両親の介護と見送り。彼女の人生には特別な事故事件が起こるわけではないし、華やかな生活をしていたわけではない。しかし現代を生きる女性なら誰にでも巡り来る経験をしている人生だからこそ、彼女の言葉には力があり、読者に勇気を与えられるのだ。

 今は晩婚化の時代だが、一糸さんは20歳で結婚した。旦那のアッくんは、一糸さんよりも7歳年上で、経験豊富な包容力のある大人に見えたという。しかし結婚生活を送る中で夫婦が協力して乗り越えていくべきライフイベントのたび、アッくんが一糸さんに言い放った言葉は無責任そのものだった。

家庭に入ってほしいと言われ仕事をやめたが、結婚生活を始めたときにまず言われた言葉

「昔は人生50年と言われていた。僕も55歳くらいで死ぬと思う。だからキミは僕が死んでからも一人で生きていかなくてはいけない。そのときはちゃんと稼げるようになってほしい。それを覚悟しておいてくれ」

娘を妊娠した時の言葉
(母子家庭で育っていることを理由に)

「父親が子どもに対してどう接するかが僕にはわからない。だから、子育てはできない。君に全て任せる。よろしく頼む」

 このような発言に加えて、アッくんは麻雀やテレビゲームでの夜更かしがたたり、朝起きられず出社拒否状態になったり、月に2回ほどしか風呂に入らなかったり、自分の面倒すら見られない男であった。意見を言えば「キミはまだ若いから、世の中のことが分かっていない」と説き伏せてきたという。当時の一糸さんの苦労は計り知れないが、彼女はただ嘆いていただけではなかった。

 地獄の中で気づいたのは、「現状を変えられるのは自分だけ」ということだったと話す。まずは自立、と小さな人形教室を開いて家庭以外の世界を作る努力をした。働きながら短大を卒業し、学歴コンプレックスを解消。建設会社に就職して宅建や二級建築士の資格を取得。着実に自分に自信をつけて、自ら不幸な環境から飛び出していったのだ。

 そして、今は余命宣告を受けながらも、残りの人生を前向きに力強く歩もうとしている。本書には一度きりの人生、思いっきり楽しむヒントがたくさん詰まっている。

文 =三浦小枝