人気動物園をウラ側から見ると… 日本の動物園は「やりがい搾取」!?

社会

2019/4/29

『動物園から未来を変える ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン』(川端裕人、本田公夫/亜紀書房)

 子どもだけでなく大人にも人気が高い「動物園」。日本と欧米では、その動物園の成立背景は大きく違うという。日本では「珍しい動物を見せて、お客を楽しませる」という娯楽施設としてスタートしたが、欧米では動物学の研究施設としてはじまっており、本来、客に見せることは副次的な意味しかなかった。

 そんな欧米の動物園のなかでも、1899年の開園以来、最先端をひた走り、世界の動物園のリーダー的な役割を担ってきたのがアメリカのブロンクス動物園だ。そのブロンクス動物園で展示グラフィックアーツ部門のスタジオマネージャーを務める本田公夫氏と、小説家で『動物園にできること』(文藝春秋)などのノンフィクションも手がけている川端裕人氏との対話をまとめたのが『動物園から未来を変える ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン』(川端裕人、本田公夫/亜紀書房)である。

■欧米の動物園は、日本の動物園とどう違う?

 学術研究施設としてはじまった欧米の動物園も、現在は一般市民に野生動物の保護や自然環境の保全を啓蒙することが最大の目的となっている。展示グラフィックアーツ部門とは、簡単にいえば、その目的を達成するためのもっとも効果的な展示の仕方を設計・実行する部門である。

 この部門は、どのようなストーリーで展示するべきかを考える展示ディベロッパーや、動物園の環境全体を設計・施工するランドスケープデザイナー、ランドスケープアーキテクト、さらに解説パネルのデザインをするサイン工房など、多種多様な職種の専門家によって構成されている。そして、本田が担っているスタジオマネージャーとは、それら全体を統括しつつ、日々動物園を見回って、保守・管理にも気を配るという仕事だ。

 本書には、ブロンクス動物園を中心に、欧米の動物園の写真が多数掲載されている。自然環境そのままと見まがうばかりの展示施設や、訪れた客に野生動物の保護や環境の保全に関心をもってもらうための細やかな工夫などは、日本の動物園が日々進歩しているとはいえ、雲泥の差と言わざるを得ない。それを支えているのが、展示グラフィックアーツ部門なのである。

 もちろん、敷地の広さや予算規模にも違いがありすぎるので、日本と欧米の動物園を単純にくらべるのは酷だろう。だが、そもそも展示グラフィックアーツ部門といった展示解説を専門とする部門が、ほとんどの日本の動物園には存在しない。要するに、組織としては「動物を飼育して、客に見せる」というところで終わっており、「なんのために、どのようにして見せるか」というプランを支える部分が完全に抜け落ちているのだ。その部分は、個々の飼育員の献身と熱意に丸投げされているのが日本における現状なのである。それゆえ、日本の動物園は、働く人々の「やりがい搾取」などとも揶揄(やゆ)されがちだという。

■動物園は都市生活者と「自然」との架け橋になる

 ただ、ブロンクス動物園に代表される欧米の動物園も、けっしてバラ色の世界というわけではないようだ。年々予算は圧縮されているし、効率よく安全に飼育することを重視する飼育部門と、啓蒙活動を重視する展示グラフィックアーツ部門は対立しがちだ。さらに、近年欧米では、動物を飼育して見せるということ自体を「悪」とするアニマルライツ(動物の権利)の考え方も広まっており、動物園の存在自体に批判も集まっている。

 それでも本田氏は、「今や、地球の全人口の約半分が都市生活者です。そんな中で、動物園は野性らしきものとの最後の接点のひとつです」と語り、動物園こそが、野生動物の世界とその保全活動の門口になり得ると確信している。動物園を通して、よりよい未来を作りたいと考えているのだ。

 ――本書を読むと、ただの娯楽施設ではない動物園の重要な役割が見えてくる。それと同時に、本当に人間と自然環境は共存し得るのだろうかという根源的な問題にも突き当たるのだ。

文=奈落一騎/バーネット