15歳少年が新宿駅を爆破? “電撃小説大賞作家”が少年の孤独と闇を描く、目をそらせない衝撃作!

文芸・カルチャー

公開日:2019/5/10

『15歳のテロリスト』(松村涼哉/KADOKAWA)

 世の中は、負の感情で満ち溢れている。徹底した悪叩き。誰もが被害者にも加害者になりうる可能性を秘めている時代だ。ネットの世界を垣間見るたびに、モヤモヤとした感情を抱く人も少なくはないことだろう。

 そんなどうしようもない感情に、答えをくれるような小説がある。松村涼哉氏の『15歳のテロリスト』(KADOKAWA)は、ある思いを抱えて事件を巻き起こしたひとりの少年の物語。松村氏といえば、いじめをテーマとした『ただ、それだけでよかったんです』で第22回電撃小説大賞を受賞したことで知られる。『ただ、それだけでよかったんです』は、学校生活とネットの問題を描き出した衝撃作だったが、『15歳のテロリスト』は、それ以上に読む者に強い驚きを与える作品だ。突然起こる爆破テロ事件。少年犯罪被害者遺族たちの慟哭。加害少年への怒りと憎しみ…。次第に、少年犯罪被害者遺族として苦しみ続けたひとりの少年の強い思いが浮かび上がってくる。

 事件は、1本の動画から始まる。

advertisement

「新宿駅に爆弾を仕掛けました。これは嘘ではありません」

「この犯罪予告が真実である確実な証拠は出せませんが、代わりに、冗談ではないことを示します。ボクの個人情報です。名前、年齢、学校等を順番に読み上げていきますね。渡辺篤人、十五歳、学校名は——」

 誰もが冗談としか思っていなかった犯罪予告動画の公開後、実際に新宿駅が爆破される事件が発生した。わずか15歳の犯行。日本全土を揺るがす少年犯罪に、ネット上には「渡辺篤人」に関する情報が溢れかえった。少年犯罪を追う週刊誌記者・安藤は、渡辺篤人の取材を進めることになる。13歳の少年による犯罪で、妹と祖母を失った、孤独な少年・渡辺篤人。元々、少年犯罪被害者の会で安藤とも顔見知りだった彼はなぜ凶行を引き起こしたのか。進展しない捜査を尻目に、安藤は、行方をくらませた篤人の足取りを追い始める。

 篤人と同様、安藤は、恋人を少年犯罪によって失った「少年犯罪被害者遺族」だ。加害者の年齢が低いがために、犯人に刑を与えることはできない。行き場のない加害者への憎悪をどうしたら良いのか。読めば読むほど、その苦悩に胸が苦しくなる。

 さらに、ネットの世界は、被害者遺族たちを苦しめる。物事の表面だけをなぞり、他人へと言葉の刃を向けることは、本当に正しいことなのか。正義などどこにあるというのか。次第に追い詰められていく被害者遺族の姿がありありと描き出されていく。

「ボクは、真実を知りたい! 祖母と妹が焼き殺されたんだ。けれど、検察は捜査をしてくれなかった。実行犯が14歳未満というだけで! 検察官が関われなかった。真犯人を暴けなかった! ボクは! 全部知りたかった。ボクは、事件に関わる全ての情報を手に入れたかった! そうじゃなきゃ! どこにも進めないんだ!」

 この作品は悲痛な叫びで溢れている。だが、クライマックスでは胸のうちにじんわりと温かい感情が生まれる。苦しむ「被害者」と「加害者」の世界を変えるために、主人公が選択した行動に、衝撃と感動が止まらない。この作品は、当事者の行き場のない感情に一つの答えを提示している。

 ひとりの少年の戦いの物語をぜひあなたも見守ってほしい。ネット社会を生きるすべての人に読んでほしい一冊。

文=アサトーミナミ