自殺志願者サイトの管理人が知人だと気づいたカウンセラーは… 結末で必ず騙されるどんでん返し!

文芸・カルチャー

2019/5/11

『毒よりもなお』(森晶麿/KADOKAWA)

 どんでん返しの結末にワクワクさせられる小説は、巷にたくさん溢れている。しかし、本稿で紹介する『毒よりもなお』(森晶麿/KADOKAWA)は、私たち読者の予想をはるかに超える、まったく新しいどんでん返し小説だ。

 物語の主人公であるカウンセラーの美谷千尋はある日、今道奈央という自殺願望がある女子高生と出会い、「首絞めヒロ」という人物のTwitterアカウントを知る。「首絞めヒロ」は“首絞めヒロの芝居小屋”という自殺サイトの管理人で、自殺志願者を募っていることが判明。犯罪のにおいを感じた千尋は「首絞めヒロ」の正体を調べ始めるが、彼が千尋自身の第ゼロ号の患者であった「ヒロアキ」であることに気づく。

 ヒロアキと千尋の出会いは、8年前に遡る。当時高校3年生だった千尋は路上でいきなりヒロアキに首を絞められたことを機に、彼を患者第ゼロ号として観察することを決意。ヒロアキと会話を重ねながら、彼が起こしてきた過去の事件や両親の秘密を調べ上げていった。

 しかし、ヒロアキを知ろうとすると、千尋自身の父親との絶望的な記憶が思い出されてしまい、平和だったはずの日常にも変化が見られるように…。その苦しみに耐えきれなくなった千尋は、ヒロアキの心を理解することを諦めてしまったのだ。

 そんな過去があったからこそ、千尋は再び巡り合ったヒロアキを今度こそ救いたいと思い、再び接触を試みるが、物語は意外な展開に――。読者は、後半270ページから二転三転するストーリーに翻弄され、予想だにしない世界にぐいぐい誘い込まれてしまうだろう。異常は日常の中にこっそりと潜んでいる。そんな恐怖を味わえる本作には、人間の狂気がたっぷりと込められている。

■あなたも必ず騙されるダークミステリーがここに

 本書のプロローグを読み始めた時と、エピローグを読み終えた後では、作品や登場人物に対してまったく異なる印象を抱いてしまう…。それこそが本作最大の魅力だ。系統はまったく異なるが、たとえるならば、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』(文藝春秋)を初めて読んだ時と似た衝撃を覚えた。

 人は誰しも、心の中に秘密を抱えながら生きている。秘密の大きさや濃度は人によってさまざまだろうが、私たちは人と親しくなるにつれ、自分の秘密を少しずつ開示し、同時に相手の秘密も知りたがる。だが、秘密をさらけ出して現れる真実は、必ずしも優しいものだとは限らない。時には、これまで信じていた虚像のほうが自分にとってすがりたくなるものであるかもしれない…。そう考えると、虚像と真実の境など実にあやふやなものだと思わされる。

 そして、真実は、それを見る人や視点が変わるたびに変化し、それを追ううちに煙にまかれてしまうことだってある。本作はそんな言いようのない曖昧さや虚しさを表している作品でもあるのだ。
「完全に青春を失った若者の偽書」
「はじめから人生を間違えた者の物語」
――帯に記されたこれらの言葉は、意外すぎるラストを噛みしめた後の心にこそ重く響くはずだ。

 異常心理や自殺願望など、人間のどす黒い部分に着目した本作には、不幸の匂いが漂っている。ヒロアキはどうしてこんなにも歪んでしまったのか。千尋はなぜ、そのヒロアキという異常者にこだわり続けるのか。その真相を知ったとき、あなたはきっと、もう一度本書を読み返したい衝動に駆られるだろう。

文=古川諭香