ヒーローになりたかった少年は、マリアのように美しい少年に恋をする。PEYO『ボーイミーツマリア』

マンガ

公開日:2019/5/11

『ボーイミーツマリア』(PEYO/プランタン出版)

『ボーイミーツマリア』(PEYO/プランタン出版)に登場する高校1年生の広沢大河は、日本一ビッグな俳優を目指すため、高校入学と同時に演劇部に入ることを決める。幼い頃テレビでヒーローに憧れたときと変わらず、脳内は少年モードの大河は、その天真爛漫さに周りが呆れるほど。

 そんな彼は、ある日演劇部の催しで舞台に立つ新入部員の「マリア様」を見た瞬間、恋に落ちてしまう。花を手に「俺の人生の女(ヒロイン)になってください」というキザな告白をするも、相手は「だれお前」と一蹴。そして「気安く近寄らないでくれるか? 悪いけど僕更衣室行く途中だから」と去って行ってしまうのだった。

 男っぽい声に、一人称が「僕」。「マリア様」とは、有馬優という少年であった。急にやめてしまった女子の代役で女装をしていたというが、彼と小学校が同じであった同級生は、彼が「少女」だったときを知っているという。今よりも髪が長く、白いワンピースを着て、水色のランドセルを背負っていた有馬は、高校で再会したら男の子になっていた、というのだ。

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 やっぱり女の子だったんじゃないか、と大河は興奮し、有馬に「マリアみたいにきれいなコが男なわけないもんなー」と言って彼の逆鱗に触れてしまう。怒った有馬がチャックを開けて見せてきたのは、正真正銘男である証拠だった。そして、猛烈に痛い捨て台詞を吐かれてしまう。

「お前みたいに物事を表面だけしか見れないような奴は舞台の上でも決まって薄っぺらい演技しかできない」

なぜ、有馬は小学校のとき女の子の格好をして登校していたのか。
なぜ、有馬はいま男の制服を着て登校しているのか。
なぜ、有馬は小学生の頃に触れようとすると怒りをあらわにするのか。

 謎は謎のまま物語は進む。そして、同時に薄っぺらい発言を繰り返す大河の過去も次第に掘り起こされていく。大河がなぜ今のような性格になったのか。それは、彼の少年時代の境遇が大きく関わっていた。

 正直、作品を読み進めるにしたがって、鳥肌が止まらなかった。丁寧な伏線回収と、見事な人物描写。シリアスな展開と、センスあるユーモアのバランス。メインの2人以外のキャラクターもたっていて、ひとりひとりの表情も繊細で素晴らしい。

 過ぎ去った過去を取り戻すことも、憎い相手に復讐することも難しいが、しかしこの2人が出会ったこと、それ自体がこの物語の大きな救いになっている。萌えあり、涙あり、怒りあり、笑いあり、ここまで心が忙しくなる作品だとは思わなかった。

文=園田菜々