ペットの失踪、交通事故、借金ーー続く不幸の裏には!? 日常が、隣に越してきた可憐な“悪女”に蝕まれる…!

マンガ

更新日:2019/5/13

『隣の悪女』(玉木ヴァネッサ千尋/集英社)
『隣の悪女』(玉木ヴァネッサ千尋/集英社)

 誰にでも、淡い初恋を抱いた相手がいるだろう。同じクラスのあの子だったり、バイト先の同僚だったり、趣味の仲間だったり…『隣の悪女』(玉木ヴァネッサ千尋/集英社)の主人公、大学生の桐太も、そんな初恋の思い出を持つ男のひとりだ。

 桐太がその人と出会ったのは、高校に入学した春だった。桐太が落としたハンカチを拾ってくれた女の子・花音は、誰もが見惚れる正統派の美人で、高校1年生にしてすでに色気を漂わせていた。大人びているかと思えば親しみやすい性格の彼女は、男子たちの憧れの的だ。パッとしない桐太にとって花音は高嶺の花だったが、彼女の誕生日や血液型は、なんと桐太のそれとまったく同じ。それどころか、好きな音楽や映画、休日の過ごし方まで一致していることがわかったのだ。

「好き」の気持ちも同じかも──ぼんやりと妄想しているうちに時は過ぎ、桐太は彼女に想いを伝えないまま卒業。花音とのかかわりは、それっきりになっていた。

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 一方で、大学に入学した桐太は、同じゼミに所属する堅物女子・亜里子と出会う。勉学にバイトに生真面目に励む「クソ真面目ガール」の亜里子は、なににつけてもユルユルの桐太とは対称的だ。しかしそれゆえに、ふたりはたがいを補い合うデコとボコのように、必要とし合っているという実感を持てた。

 花音に恋をしたときのような情熱はないけれど、亜里子とは自然に一緒にいられる。花音のことは、すぐに思い出に変わるだろう…そう思っていた桐太だが、ある夜、ひょんなことから、亜里子と半同棲生活を送っているアパートの隣の部屋に、まさにその花音が引っ越してきたということを知る。

 桐太がなぜか次々と不幸に見舞われるようになったのは、花音と再会した直後からだ。短期間のあいだに、ペットの小鳥がいなくなり、亜里子との関係が変化し、交通事故に遭って入院、大学も休学し、友人からは借金をした。これだけ不幸が続くなんて、なにかに取り憑かれているのではないかと後輩の島袋にもからかわれる。

 だが、本当に怖いのは、死んだ人の霊よりも、生きている人間だ。消えた小鳥と、花音が作った鳥の唐揚げのあいだに因果関係はあるのか? 殺人現場に桜の花が落ちていたことと、花音が描く絵のモチーフに桜が使われていることには? 花音の悪行を阻止したいと言う美人占い師の美雨も現れ、物語は「六本木心中」という不穏なキーワードをちらつかせながら加速する。そして待望の最新巻では、ついに島袋が「六本木心中」事件の深層へ──。

 読んでいて恐ろしいのは、なんでもない日常の中に、いつのまにか悪意がまぎれ込んでいることだ。水を張った鍋に入れられそのまま火にかけられた蛙が、茹でられていることに気づかず死んでしまうように、平穏だった日常には、きな臭い非日常が入り込んでいる。気がついたときにはもう手遅れだ。

 魅惑的でミステリアスな“隣の悪女”がかき乱す、穏やかな日々。ページをめくるごとに見え隠れする彼女の本性を、あなたは見抜くことができるだろうか?

文=三田ゆき