天才ブラック・ジャックが仕事の悩みにメスをふるう! 他の同僚を高評価する上司が許せないときには?

ビジネス

更新日:2019/5/14

『もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら』(尾崎健一:著、手塚プロダクション:協力/日経BP社)

 無免許の天才外科医ブラック・ジャックが活躍する手塚治虫の『ブラック・ジャック』は医療漫画の嚆矢(こうし)であり、いまも多くのファンを持つ人気作品だ。1973年から78年にかけて『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載され、以後も同誌に不定期連載された。

 そんな天才外科医であるブラック・ジャックが現代のビジネス・パーソンの抱える悩みに答えたら、いったいどのような回答を示すだろうか? …というのが、『もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら』(尾崎健一:著、手塚プロダクション:協力/日経BP社)だ。著者は『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)などの著作もある臨床心理士で、シニア産業カウンセラーという肩書も持っている。

■天才外科医のメスは、一般人の悩みにどう役立つ?

 ところで、ブラック・ジャックは神業的な手術の腕前を持ち、組織に属さない一匹狼というキャラクターだ。そんな孤高の天才が、はたして私たちのような普通の会社員の悩みを解決できるだろうか? と疑問を抱く人もいるかもしれない。だが、『ブラック・ジャック』では、実質的に各話の中心となるのは病気に苦しむ“普通の人々”であり、主人公のブラック・ジャックは狂言回しに過ぎないことも多い。また、ブラック・ジャックの手術の高度なテクニックのおかげではなく、的確なアドバイスなどによって患者の問題を解決するというエピソードも少なくない。

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 そこで本書では、以下のような流れでさまざまな社会人の悩みについて解答を示していく。

(1)著者が実際に見聞きした、ビジネス・パーソンの悩みを紹介
(2)その悩みに対してヒントになりそうな『ブラック・ジャック』のエピソードを紹介
(3)そこで示された解決策について考察する

 本書で紹介されている悩みは、「上司の評価に納得できない」、「他人の話を聞こうとしない後輩に腹が立つ」、「自分のキャリアの行く末が心配」など、どんな職場にもありそうなものばかりだ。

■同僚だけを高評価する上司に納得いかないときは…?

 一例を挙げよう。「同期に出世で先を越され、上司の評価に納得できない」という悩み相談。これに対応するエピソードとして示されるのが「病院ジャック」である。これは、次のようなストーリーだ。

 ある病院でブラック・ジャックが手術中に、病室がテロリストに占領される。テロリストたちは患者の命を人質にして政府と交渉するため、手術の中止を命令。患者を救いたい手術スタッフは、ブラック・ジャックに打開策を相談するが、彼は切り開かれた患者の腹部をじっと凝視したまま「どうにもならないじゃないかね。待つよりしようがない」と、そっけない。この態度にスタッフたちは呆れる。

 その後、政府との交渉が失敗に終わり、テロリストたちは逃亡するが、その際、病院の電源を破壊していく。手術室は暗闇に閉ざされ、スタッフたちが狼狽(ろうばい)するなか、ブラック・ジャックは冷静に手術を再開し、見事に成功させる。ブラック・ジャックいわく、「わたしは万一のときを思って、クランケの患部だけをずーっと見つめていたんだ。だからいま、まっくらでも頭ん中にはっきり患部のこまかいところまでわかるんだっ」。

 このエピソードで問題解決のヒントとなるのは、極限状況下で患部の状態を正確に記憶し、暗闇の中でも手術できるブラック・ジャックの超絶技巧ではない。他人の行動や考えを変えるのは至難の業であるとあきらめて、現実を素直に受け入れ、その上で「いま自分にできることに全力を尽くす」という姿勢である。

 本書には、このようなマンガからのヒントが全部で13個、「カルテ」として紹介されている。このカルテを用いて、自分の悩みに対しどんなふうにメスをふるうか? ――それはあなたの腕と勇気にかかっている。

文=高坂笑/バーネット