AI技術で死んだ家族が帰ってきたら?再び始まった日常の中で気づく大切なものとは

暮らし

2019/5/16

『レンタル家族』(松本健太郎/双葉社)

 いずれは訪れる家族の死。闘病生活が長く続き、覚悟したうえで死に立ち会うこともあれば、突然の事故や病気により、今朝まで元気だった人が帰らぬ人となってしまうこともあり、死の形はさまざまだ。しかし、どのような形であれ、家族が亡くなったことの悲しみはすぐに癒えるものではない。もう一度家族に会いたい、帰ってきてほしいと願わずにはいられないだろう。『レンタル家族』(松本健太郎/双葉社)には、亡くなった家族と再び暮らす人々が描かれている。亡くなったはずの家族が家に帰ってくれば、死別の悲しみを忘れてずっと幸せに暮らすことができるだろうか。

 作品の舞台は、政府主導プロジェクト「家族レンタルサービス」がスタートした社会。亡くなった家族をレンタルできるサービスである。レンタルといってもロボットなどではなく、死者そっくりに作り替えられた生身の人間をレンタルできるのだ。作り替えられるのは自殺志願者たち。彼らに整形を施して外見を変え、依頼者から提供された死者に関する情報をもとに、脳内にAIチップを埋め込む。これにより、外見だけでなく記憶・性格・癖まで死者そっくりの人間を派遣できるという仕組みだ。このサービスを利用すれば死者本人が帰ってきたように感じられるため、遺族の心のケアに役立つとされている。

 遺族たちは「家族レンタルサービス」を利用するうちに、亡くなった家族が遺してくれた大切なものに気づき始める。少しずつ死を受け入れ、その悲しみから立ち直っていく家族を描いた5つの短編が収録されている。

 断っておくが、この本は自殺志願者の記憶・外見を変えることや亡くなった人間として生きていくことに対する倫理観を問うものではない。そのため、例えば派遣された人間が書き換え前の記憶を取り戻して混乱し始めたり、暴走して遺族を恐怖に陥れたりするようなことはなく、あくまでも遺族の感情の変化に焦点を当てている内容だ。

 作中の遺族は、家族の死による悲しみや後悔で苦しんでいる。そんなとき、「家族レンタルサービス」で亡くなったはずの家族が“帰ってきた”。これで苦しみを忘れられる、今まで通りの日々を送れると喜ぶ遺族たちだが、物語はそれで終わらない。家に来たのはあくまでも「家族レンタルサービス」であり、亡くなった本人ではないことを理解しているからだ。そして、派遣された作られた家族も、自分がレンタルであること、本人は他界していることを理解している。

「家族レンタルサービス」は、遺族と亡くなった家族がやり直すチャンスだ。本来なら亡くなった相手とコミュニケーションを取ることは不可能で、どう思っているかを想像することはできても、確信を得ることはできない。自分の気持ちが届いているのかもわからず、もしかしたら自分のことを憎く思っていたのではないだろうか、自分を許してはくれなかったのではないだろうかと不安を抱えることもある。その点、作中ではこのサービスのおかげで、「大好きだよ」「幸せな日々をありがとう」など、亡くなった家族に言えなかった自分の気持ちを伝えることができる。また、本人が生前にどう思っていたか、どう答えたかを知ることもできる。「前を向いて生きて」「幸せだったよ」「いつもそばにいるからね」。聞きたくても聞けなかった言葉が自分のもとへ届く。そして、亡くなった家族の願いや自分たちへの思いを知った遺族たちは、失った悲しみではなく、彼らが残してくれた大切な思い出に目を向けられるようになっていく。

 亡くなった家族にそっくりな「家族レンタルサービス」がやってきても、死という事実は変わらない。だが、一緒に過ごした思い出までは消えることはない。失った悲しみの中でもがきながらも、前向きに生きていこうとする遺族の姿が感動的で、ほろりと泣けてくる。切なさと温かさがたくさん詰まった一冊だ。

文=かなづち