SNSの悪口は訴えたら勝てる? 人気弁護士YouTuberが回答!

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更新日:2019/5/22

『弁護士YouTuberクボタに聞く「これって犯罪ですか?」』(久保田康介/KADOKAWA)

 SNSを利用していると、思わぬところで他人から攻撃されてしまうことがある。相手は悪気がないのかもしれないが、黙って我慢していても癪でモヤモヤが消えなくなる。あるいは、知らないうちに自分が加害者側にまわっているケースもありうるだろう。「冗談半分」や「悪ふざけ」で投稿した内容が、いつのまにか深刻な恨みを買っている―。考えるだけでおそろしい。

 SNS投稿における「善」と「悪」の境界線は難しい。人によって許せる範囲が変わるのも、余計にユーザーを混乱させるだろう。ただ、もっとシンプルに考えてみよう。犯罪になるような投稿は絶対に書き込まず、心の中だけに留めておけばいいのだ。『弁護士YouTuberクボタに聞く「これって犯罪ですか?」』(久保田康介/KADOKAWA)は、SNSでありがちなトラブルを例に挙げ、「訴えた場合の勝率」を分析していく。ネット社会で加害者もしくは被害者にならないよう、参考にしてみてほしい。

 著者は14万人を超える登録者(本稿執筆時点)を抱える「弁護士YouTuber」である。久保田康介氏はこれまで、著作権問題や悪徳商法などの比較的身近なテーマをわかりやすく解説し、人気を得てきた。本書でも、事例を基にして「SNSユーザーなら誰もがやってしまいそう(やられそう)」な状況を紹介していく。

 気をつけたいのは、投稿者の正義感が暴走するパターン。自分の行動が正しいと思い込んで、法律を踏み越えてしまっては元も子もない。「あの子は現在不倫中だ」という投稿は名誉毀損により、被害者の勝訴率が95%にまでになるという。また、「あの作品は盗作だ」という投稿も、批判された被害者の勝訴率が70%。盗作を告発するつもりなら、明確な根拠を提示して理論武装しないと、単なる誹謗中傷になってしまうのだ。

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 人間関係でイライラして、つい攻撃的な投稿をしそうになったときもよく考えよう。他人の学力を無断でさらし、「あいつは実はバカだった」と触れ回るのはプライバシーの侵害。民事責任を負わされ、訴えられれば高確率で負ける。「あいつはキレ痔だ」のように、事実だとしても本人が羞恥の感情を抱いてしまったなら、損害賠償の対象となる。客観的事実なら何を言ってもいいわけではないのだ。

 SNSで普通になってしまっている投稿についても、意識改革は必要である。たとえば、Twitter上で公然とDMを公開している人をたまに見かけないだろうか。「こんなDMが送られてきて困っている」などと、本人からすれば被害者のつもりなのだろう。しかし、DMの内容は法的には「私生活」にあたる。つまり、送信者の許可がない限り、勝手にさらしていいものではない。もちろん、DMを使ってセクハラをしてくるなどの問題が起こっているのは事実。その場合はストーカー規制法を適用することが可能である。要するに、きちんと相手を罰したいなら「さらす」ことよりも、「正しい手順を踏む」ことが先決なのだ。

「インスタ映え」に関するトラブルも知っておきたい。見知らぬ人が映りこんでいる写真は肖像権の侵害になる。過去には、映りこんだ人に訴えられて負けてしまった裁判例もある。「たかが写真」と甘く見ず、赤の他人がはっきりと写っている写真は投稿しないのが無難である。

 本書を読んでいると、「そんなことで犯罪になるのか」という驚きの連続だった。正直、現在のSNSを見渡すと、損害賠償を求められても仕方のない内容があふれていると感じる。SNSでは理不尽な炎上やプライバシーの侵害といった黒い事件が絶えないが、原因のひとつに「匿名なら何をしてもいい」というユーザーの認識の甘さがあるのではないか。自分のネットリテラシーを振り返り、思わぬ失態を避けるために本書は非常に有効である。

文=石塚就一