姪との間に私生児をもうけ海外に逃げた「最も身勝手な文豪」は? 名だたる文豪をランク付け!

文芸・カルチャー

2019/5/19

『文豪ナンバーワン決定戦』(福田和也:監修/宝島社)

 今、文豪たちはアニメやゲームのキャラクターになっている。ご本人たちは天国でさぞやびっくりしているだろう。しかし、そのおかげで私たちには実際に作品を読んだことはなくても、名前だけは知っているという文豪が結構いる。本稿では、さらに大人としての教養を養うべく、イラストと写真付きという親切設計の1冊をチョイス。『文豪ナンバーワン決定戦』(福田和也:監修/宝島社)だ。

 本書は、文豪50人を「面白さ」「美文」「思想性」「独自性」「読みやすさ」といった視点別に点数を付け、総合ランキングにまとめた1冊。気軽に手にすることができる近代文学入門講座でもある。文豪たちの総合ランキングは、文学初心者から練達の読み手までという幅広い層にアンケートを取った上で、福田和也氏監修のもと作成されている。さて総合ランキング1位は誰…? その結果は、直接本書を手に取って確認していただきたい。本稿では、一風変わった部門で1位を獲得してしまったある文豪を紹介しよう。

■身勝手男ランキング1位…島崎藤村

 ここでいう「身勝手」とは、女性関係にまつわる身勝手さだ。明治から昭和初期までは、文豪に限らず世の中全体に、一夫一妻では収まりきらない男女関係が多かったようだ。だが、そういった風潮の中でなぜ島崎藤村が1位にランクインしたのか。その理由となる出来事は以下の通りだ。

 藤村が41歳の時のこと。彼は妻を産褥で亡くす。さぞや悲嘆にくれたのではと思いきや、藤村は家事手伝いに来ていた19歳の実の姪・こま子と関係をもつ。こま子は妊娠し私生児を出産するが、泣く泣く里子に出すことになる…。藤村よ、せめてもっと母子を大事にしなされ、と突っ込みを入れたくなる。

 が、悲しいかな、状況はさらに藤村にとって分が悪かった。彼はなんと、こま子の妊娠を知るやいなや、何の責任も取らずにフランスに旅立っていた。しかも、帰国するとその後数年にわたりこま子を惑わせた上、彼女との人間模様を小説に仕立て、『新生』を発表する。自分に都合の悪い部分は削った上で…。

 こま子はその後、流転の人生を送り、40歳になる頃には貧困と病のためひとりで施設に収容されるに至ったという。かたや藤村は、24歳年下の妻と再婚、今も文壇の重鎮に収まっているではないか。彼は地位と名声を手に晩年まで活躍する…。

 まったく身勝手すぎる。とはいえ、こま子には気の毒だが、島崎藤村が現在にまで名を轟かす文豪であることは確かだ。この藤村だけでなく、「文豪」と呼ばれる人物には、酒に女に自殺に病気、とその私生活は破天荒であり、「ちゃんとしていない人」も多い気がする。彼らの人間としての凸凹が、現在の私たちにとっても魅力的に映るのだと思う。ストーリーや文体に加えて、作品に漂う彼らの人生の悲哀を、丸ごと感じることができるのは近代文学ならではだ。

■文豪作品の魅力はどこにある?

 監修の福田和也氏は、時代を超えて読み継がれる作品とそうでない作品の違いはどこにあるのだろうと、疑問を投げかける。確かに、存命中ベストセラー作家であっても現在はあまり読まれていない作品もあれば、没後評価され有名になる作品もある。不思議なことだ。

 最後に、藤村の情けないエピソードを明かしてしまった手前、彼の文豪たるすごいところも紹介しておきたい。藤村の『夜明け前』の冒頭の一文は、「木曽路はすべて山の中である」と始まる。本書の「この書き出しがすごい!」のコーナーでも絶賛されているが、たったこれだけの文字数で、物語の背景すべてを描き出してしまう見事さは、やはり文才だ。

 堅苦しいイメージがあるかもしれない文学作品だが、あまり難しく考えずに、途中で挫折してもOKくらいの気持ちでチャレンジしてみよう。本書を通じて文豪の人柄にイメージを広げたら、ご本人の文章にも触れてみようではないか。

文=奥みんす