30代独身女性が、両親を失った中2男子&5歳児と同居生活! 家族「のように」なっていく様が胸を打つ『の、ような。』

マンガ

更新日:2019/6/13

『の、ような。』(麻生海/芳文社)
『の、ような。』(麻生海/芳文社)

 一人暮らしの自分が、ある日突然、「子持ち」になったらどうするだろう?

 子どもたちは、血縁関係のない赤の他人。寝食を共にしてお世話をしつつ、「ちゃんとした」大人になるよう育てる責任感も生じる…突如、そんな生活になったら、貴方ならどうするだろうか?

『の、ような。』(麻生海/芳文社)は、家族(のような)関係に、「少しずつなっていく」人たちの生活を丁寧に描き、時に子育て中の方々を「スカッと」させてくれるマンガだ。

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 物書きとして生計を立てている30代の独身女性・希夏帆(きなほ)。

 自分の時間を自由に使い、誰にも束縛されない生活をしていた。(ただ、〆切には常に追われている)。

 だがある時、彼氏の愁人(あきと)が、事故で亡くなった、いとこ夫妻の子どもたち、中学2年生の冬真(とうま)と5歳の春陽(はるひ)を連れて来る。突然親を亡くし、行き場をなくした子どもたちを放っておけず、希夏帆は彼らの面倒をみることに。

 だがその日から、希夏帆の生活は一変する。

 自分のためだけに使えていた時間が、家事育児に消えていく。思うように時間が取れず、執筆活動も滞る。さらに、長男の冬真はおとなしくて物分かりのいい少年だが、微妙な年頃。次男の春陽は、まだまだ目が離せない、普通に手のかかる「お子さま」だ。

 大変じゃないわけが、ない。

 しかし本作は、その「大変さ」を、比較的ポジティブに受け入れつつ、新しい生活にドタバタとしながらも慣れようとする希夏帆、そして子どもたちの様子を描いている。

 口はちょっと悪いけれど、サバサバして情の厚い希夏帆のキャラクター性もあり、この物語にはそれほどの悲壮感がない。むしろ「赤の他人が共同生活をして、少しずつその集団のカタチ」が出来上がる様子を、読者は感情移入しながら、ちょっとワクワクして読むことができる。

 一方で、登場人物たちには、それぞれ「心に抱えている暗闇」のようなものもあり(作中ではまだ明らかになっていないことも多いが)、そこが物語としての「厚み」になっているように思えた。

 両親を亡くした冬真は、表面上、淡々と希夏帆との生活を送る。もっと泣いたり戸惑ったりするのではと思いつつ、実際に自分がその状況だったら、案外、普通に生活をしてしまうような気もする。けれどふとした瞬間に、悲しみが外に漏れる瞬間があって、それがまた本作の読みどころ。ジーン、とするところでもある。

 次男の春陽は幼いので、まだ自分の状況が分かっていない。

 天真爛漫で可愛らしく、本作の「癒し担当」なのは間違いないが、今後、成長していくにつれ、希夏帆との生活をどのように理解し、受け入れていくのかが気になる。(第2巻では、母親が「いなくなってしまったこと」に対しての春陽の想いが垣間見えて、ホロリとする場面も…)。

 本作は、独身の方が読んでも、子育て中の方が読んでも、おもしろいはずだ。

 子育ては自分の子ども時代の「追体験」などと言ったりする。独身の方は、希夏帆が「子どもを育てる」ことで自分自身と向き合っていく様子を、物語を通して感じることができる。

 また、幼稚園でのお弁当事情や公園デビュー、ママ友との関係など、リアルな子育ての「あるある」が描かれているので、子育て中の方も大いに共感できるはずだ。(独身の私は、幼稚園によって「お店で購入したお弁当を持ち込むのは禁止」とか、そういうルールがあることに、とても驚いた)。

 さらに希夏帆が傍若無人なママ友に「それ、おかしいんじゃない?」みたいなことをストレートに言ってくれる様子に、スカッとしたりもできるのではないだろうか。

 少しずつ、お互いが歩み寄り、形を変えて、「家族」のようなものになっていく人々。

 彼女たちが「本当の家族」ではないからこそ、読者には「家族の本質」みたいなものが、見えてくるのかもしれない。

文=雨野裾