「私もいじめたし、いじめられた」――樹木希林さんの手紙に秘められた深い人生訓

エンタメ

2019/5/24

『樹木希林さんからの手紙』(NHK『クローズアップ現代+』+『知るしん』制作班/主婦の友社)

素顔の樹木さんを知る、貴重な手紙の数々

 樹木希林さんが亡くなられた後、名言集・発表した文章全文・対談集・講演会・終活と、何冊もの本が発売された。どれも確実に読まれていて、ミリオンセラーになった本、50万部を超えた本があるので、これらの本を通じて樹木さんのファンになった、新たな魅力を発見したという方もいらっしゃることだろう。

 樹木さんのユーモラスで深くて厳しい言葉の数々は、簡単には答えの出せない問題に日々悩みまどう私たちの心に深く突き刺さる。樹木さんのような生き方はそう簡単には真似できないとわかっているけれど、樹木さんの言葉の中から何らかの答えを探したくて本のページをめくる方も多いのではないだろうか。

 そんな樹木さんファンにおすすめしたいのが、『樹木希林さんからの手紙』(主婦の友社)である。これは個人的なおつきあいや仕事がきっかけで知り合った、いずれも一般の方にあてた手紙をまとめたもの。私信を通じて「愛情豊かで温かな樹木さん」を知ることのできる1冊だ。

 樹木さんは誰にどんな手紙を送っていたのだろう。紹介されている手紙は多岐に渡る。いじめをなくしたいという相談者、元ハンセン病患者が主人公の河瀨直美監督の映画『あん』のモデル、一世を風靡した「ピップエレキバン」のロケ場所の北海道・比布駅(人ではない!)、働くすべての人に向けた伊藤忠商事のコーポレートメッセージ、内田裕也さんや本木雅弘さんまで登場する米沢法人会婦人部会、成人式を迎えた悩み多き5人の若者たち。死を語り合った何必館・京都現代美術館の館長。そして亡くなる1ヶ月前に書いた仕事仲間への手紙。10代で映画監督デビューした仲村颯悟監督との交流も語られている。これだけでも樹木さんの交流がいかに幅広かったのかが伝わる。

気づかずにいた一番大切なことをさらりと教えてくれた若者への手紙

 長野県・上田市で開かれた成人式に出席する若者25人には事前に書いたアンケート用紙だけを見て、会ったことのない彼らの悩みの本質を見抜き、便箋2~3枚ずつの手紙を書いた。全身がんを公表した3年後のことである。

 この本では25人の中の5人にあてた手紙を紹介している。教師をめざすその中の1人あての手紙には、教えることは「寄り添い共に育つことかもしれない」と書かれていた。教師=勉強を教えることを一番に考えがちだけれど、大切なもっと根本的なことは生徒と一緒に寄り添うことであって、勉強を教えることではないと諭してもらったと、大学生の若者は気づいたと言う。

手紙に簡単な答えは書いていないことが樹木さんの愛情

 樹木さんが手紙にしたためた言葉や文章は、明日からすぐに誰でも実行できるものばかりではない。「いじめをなくしたい」と言った人には、いじめが違いから生まれるものであって、自分もいじめたし、いじめられたことがあることを告白し、いじめをなくすことは「はてしのない道のり」だと記す。この方法ならばいじめをなくせるという安易な、その場しのぎの耳障りの良い答えは書かれていない。

 追伸では、「みんな同じ形のロボット人間じゃつまらない」と。違いを認め合うことの大切さもさらりとユーモア混じりで伝える。その言葉の意味を自分なりに考える、自分なりの解釈をしてこそ、樹木さんのくれた言葉が、いま立ち止まっている人に必ず生きてくる。きっとその人にとって生きたアドバイスになる。ヒントは伝えたから、答えは自分で導き出しなさいと言われているようだ。

罪滅ぼしのために手紙を書いていることを告白

 樹木さんが手紙を書く理由は罪滅ぼし。過去には言葉で人を傷つけたこともあったけれど、60歳過ぎて癌になり、ガチンと響いたのだそう。遅いけれどもその罪滅ぼしで手紙を書いていると告白している。

 どの手紙も愛情がガツン!と伝わり、スーッと心にしみてくるのは、一人ひとりの悩みに全身全霊で向き合ってくれたからだろう。私信を公開してくれた方々のおかげで、何かちょっと手助けしたいという樹木さんの深い思いをまるで自分が手紙をもらったように受け取ることができる、読みやすい手紙だけのページもある。

 いじめ、働き方、子育て、教育、学ぶこと、日本という国、介護問題、生きる意味、死ぬこと。樹木さんからの手紙は、相手を思いやる樹木さんのベストチョイスの言葉と文章が迫力ある文字でつづられている。きっとあなたが生きていく途中途中で必ずいくつものヒントをもらえる本だ。