職業は「影武者」!? 面接の代打から大物のスキャンダル隠しまで…誰かを演じる人間レンタル屋の実態

社会

2019/5/22

『人間レンタル屋』(石井裕一/鉄人社)

 全国で2000人もの登録スタッフを抱える、代行・代理出席サービス「ファミリーロマンス」。必要なときにいつでも、お好みの“演者”が駆け付けてくれるユニークなビジネスを展開している。2009年にサービスを立ち上げて以来、今では年間3000件以上もの依頼を受けているという。

 代表者の石井裕一さんが綴った著書『人間レンタル屋』(鉄人社)には、切実な思いから依頼をしてきた、さまざまな人の人生模様を表すエピソードが多数収録されている。

■創業のきっかけはシングルマザーの女友達からの“依頼”

 石井さんが初めて引き受けたのは、女友達からの依頼だった。3年前に離婚した彼女は、看護師として働きながら息子1人を育てるシングルマザー。当時、介護職から広告代理店へ転職したてであった石井さんに対して、彼女は私立小学校受験のために「父親の代わりをしてほしい」とお願いしてきた。

 疲れ果てた表情で「一生のお願い」と手を合わせてきた彼女から、石井さんは「一人親で子どもを育てていく大変さや、社会の理不尽さを知りました」と著書の中で振り返っている。

 ただ、初めての「依頼」は失敗に終わってしまったのだという。即席で「本物の家族」を演じるのはとても難しく、面接でも一度も「お父さん」と呼んでもらえなかったと苦い失敗の記憶をたどる石井さん。しかしながら、この経験をふまえて当時流行していたSNS「mixi」でコミュニティを立ち上げたのが、ビジネスのきっかけになったという。

■大企業の役員になりかわり“危ない橋”を渡る…

「誰かの代わりになる」というのは、ときにはリスクもつきまとう。幸いなことに過去にバレたことは「一度もない」と振り返る石井さんであるが、冷や汗をかいた経験は少なからずあるそうだ。

 ある日、舞い込んできたのは「某大手企業の役員として出席してほしい」という依頼。会場となったのは東京・六本木のパーティー会場で、当日は男女パフォーマーの歌やダンスといった余興もあったりと、とにかく豪華けんらんだったという。

 参加者の前で壇上へ立ち、謝意のスピーチを終えた石井さん。しかし、その先からが問題だった。同じテーブルにいた新聞記者から「今日は◯◯さんとご一緒ではないんですか?」など、質問攻めを食らってしまったのだ。依頼が来たのが直前だったため「事前準備が全くできなかった」としつつも、どうにか乗り切ったという。

 そして、この依頼にはもうひとつのからくりがあった。じつは、石井さんが演じきった役員は、その翌週に某週刊誌でスキャンダルが暴露された人物であった。そもそものレンタルの意図は、「公の場に本人を出すわけにはいかない」といった事情によるものだったのでは…それは、結果から推測するしかない。

 後日、パーティー中の新聞記者からの質問攻めにも合点がいったと振り返る石井さんは、「このような危ない橋をわたることもときにはある」と、みずからの仕事について綴っている。

 さて、あとがきで石井さんはこの“人間レンタル”という仕事について、「人間に興味を持つこと」がいちばん大切だと語っている。どのような依頼であっても、“代わり”を求める人たちにはおそらく切実な思いがあるはずだ。本書を通して、さまざまな人間ドラマに思いをめぐらせてもらいたい。

文=カネコシュウヘイ