過去の壮絶ないじめの記憶に押しつぶされて自殺未遂を重ねる彼女…生きづらさを抱える2人が寄り添って生きる物語

マンガ

更新日:2019/6/13

『アスペル・カノジョ』(萩本創八:原作、森田蓮次:漫画/講談社)

 近年“生きづらさ”というキーワードが、さまざまなメディアで取り上げられている。学校や職場での人間関係に悩んでいたり、仕事がうまくいかなかったり…生きづらさを感じる理由は人それぞれ。現在「コミックDAYS」で連載中の『アスペル・カノジョ』(萩本創八:原作、森田蓮次:漫画/講談社)は、生きづらさを抱えるあるカップルの物語だ。

 売れない同人作家・下水星人として活動をする横井さんは、新聞配達をしながら生計を立て、日中は部屋でひとり創作活動…という日々を送っていた。そんなある日、下水星人のファンを名乗る女性、斉藤さんが、突然彼の“自宅”を訪ねてくる。彼女は、下水星人のブログに掲載されていた画像から彼の住所を割り出して、鳥取県からやってきたと話す。

 驚異的な行動力で、横井さんの前に現れた斉藤さんは、空気を読むのが苦手で「10時頃」など、あいまいな表現が伝わりにくいという特徴を持つ。作中、明確に明かされてはいないが、何かしらの「障害」があることが示唆されている。また、父親からの暴力、学生時代に受けたいじめのトラウマがフラッシュバックしてパニックに陥るなど、さまざまな“生きづらさ”を抱える女性だ。横井さんはそんな斉藤さんを家にあげ、なし崩し的にふたりの共同生活がスタート。

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 突然押しかけてきた斉藤さんを受け入れ、彼女がパニックに陥ると仕事の途中でも駆けつける横井さん。そんな彼もまた、人の目を見て話すのが苦手、人との会話が苦痛、などの「対人恐怖症」を抱えている。人との関わりに敏感な横井さんだからこそ、自分の感情や想いを伝えるのが苦手な、斉藤さんの気持ちを察することができるのかもしれない。

 斉藤さんのトラウマを呼び起こすフラッシュバックは、いつ何時起きるかわからない。たとえば“憧れの下水星人さんに会えたうれしさ”がパニックのきっかけになることもある。

「昨日は凄く嬉しくて久しぶりに楽しい気持ちのままドキドキしてて
でも 寝る時に中学とか高校の記憶がフラッシュバックして不安になったんです
起きたらまた辛いことばっか思い出すのかなって
楽しい気持ちのままパッと消えられたらいいのになって思ったんです」(1巻より)

 その夜、彼女は不安をかき消すために自分のカッターでリストカットをしてしまう。また、自宅の木製テーブルについた傷を発見したときには“机に彫刻刀で暴言を彫られた”という、学生時代の過酷ないじめ体験を思い出してパニックに陥り、救急車で運ばれたことも。何気ない出来事がトリガーとなってしまうのだ。

 そんな彼女を支える横井さんは「たった一人 過去からリンチされ続ける斉藤さんに 加勢出来るのは俺しかいない」という覚悟を持ってともに暮らしている。真摯に向き合ってくれる横井さんとの日々のなかで、豊かになっていく斉藤さんの表情も印象的だ。

『アスペル・カノジョ』は“普通”の難しさや“平和な一日”の大切さが感じられる作品となっている。

文=丸井カナコ