何をやっても長続きしなかった“ミーハー”が、数々の有名ホテルのプロデュースを成功させた驚きの仕事術

ビジネス

2019/5/27

『中村貞裕式ミーハー仕事術』(中村貞裕/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 流行に敏感だけど、良くも悪くも深入りせず、どの分野も広く浅くかじっている人たち、俗にいう「ミーハー」。彼らに対する世間の印象はイマイチだ。口が上手くてなんだかチャラチャラしていて軽薄そう。物事に対する姿勢もテキトーそうで、一緒に過ごしたいとは思わない。

 筆者自身にかなりの偏見があるので、つい彼らのことをかなり厳しめに表現してしまう。しかし『中村貞裕式ミーハー仕事術』(中村貞裕/ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読めば、そんな偏見は覆るだろう。

 著者の中村貞裕さんの実績はすさまじい。目黒にある「CLASKA」や大阪の「堂島ホテル」などのデザインホテルのプロデュース、「グッチ」「ディーゼル」「メルセデス・ベンツ」などのブランドカフェの運営、世界最大級のSOHOオフィスビル「the SOHO」のプロデュースなど、挙げればキリがない。

 経歴だけ見ると中村さんのことを、「さぞ厳格で威風あるプロデューサーなのだろう」とイメージしてしまうが、実際はちょっと違う。

僕は典型的なミーハーだ。

 本書でそう自認しているのだ。それも「スーパーミーハー」だと。けれども、だからこそ中村さんは前出の素晴らしい経歴を築けたそうだ。いったいなぜなのか? 読者に中村貞裕式ミーハー仕事術を少しだけご紹介したい。

■ミーハーであることがコンプレックスから強みに変わった

「子どもの頃から、何をやっても続かなかった」

 本書の冒頭は、中村さんの告白から始まる。かっこいいという理由でバスケをはじめ、なんとなく面白そうに見えてサッカー部に入部し、流行が訪れたのでスケートボードを買い、ギターを買い、テニスラケットを買い……。結局あれもこれも全部続かなかった。

 流行りのものに食いついては、飽きたら別のものへ手を出し、飽きっぽい自分が情けなくなった。次第にコンプレックスを抱くようになったそうだ。

 しかし何事でもそうだが、悪い一面があれば、良い一面もある。飽きっぽい中村さんの手元に残ったものは何もないように見えた。けれども「とりあえず色々なことに手を出した」ので、周りから「とりあえず色々なことを知っている」と思われるようになり、周囲からあれこれ聞かれるようになったのだ。

 中村さん自身もそれに気がつき、雑誌を片っ端から手にして、街を歩き回って、面白そうな情報を手当たり次第にチェックするようになった。そしていつの間にか周囲から「歩く情報誌」と認められていたという。

 ミーハーであることが、コンプレックスから強みに、そしてブランドに変わったとき、中村さんの人生に転機が訪れた。

■ミーハーだからこそ「時代の感覚」が研ぎ澄まされていた

「バイヤーになりたい」という単純な理由で伊勢丹に就職した中村さん。飽きっぽい性格が祟って一時は退職も考えた。しかし気がつけば大きな成果を挙げることになる。

 きっかけは「解放区」と呼ばれる、伊勢丹の1階のメイン空間に作られた「実験的な売り場」を担当したときのこと。中村さんは「パーティーをやりたい」と考えた。

 説明すると長くなるので、このパーティー「オーバーグラウンド・トーキョーサロン・ルージュ」が成功した要点だけを本書よりつまみたい。

 ミーハーといえば聞こえは悪いかもしれない。しかし多くの流行にいち早く飛びついた中村さんは、「時代の感覚」が研ぎ澄まされていた。だからパーティーを訪れる人が気に入りそうな空間づくりをプロデュースできた。

「ルージュ」の評判はどんどん社内外で広まり、数年間続けた結果、招待者リストには数千人もの名が連なった。ここで築いた人脈は、伊勢丹の仕事で大いに生きた。一流のデザイナーにお願いしてグラフィックを作ったり、カフェやCDショップを営む人に伊勢丹内に売り場を出してもらったり。

 この成功体験が、やがて中村さんをスーパーミーハーへと変貌させ、冒頭に挙げた輝かしい経歴を導くことになる。

■「言ってみれば僕自身は何もできない」

 中村さんが本書で一貫して述べているのは、「ミーハー」をいかに「強み」に変えるかという方法だ。

 世の中のスペシャリストたちは、ある特定の分野を徹底的に磨き上げて、仕事へ昇華させている。一方、決まった専門分野を持たないジェネラリストは、代わりに様々な分野の知識を持ち合わせている。

 ミーハーでありジェネラリストである中村さんは、自身が「知っているけど深くは知らない」ことを認め、世の中のスペシャリストたちの力を借りることにした。ミーハーとして得た知識を会話のフックにして、様々な人とつながって仲良くなり、人を巻き込む形で様々なプロジェクトを成功させた。

言ってみれば僕自身は何もできない。
でも「ここにこのスペシャリストをキャスティングしてこんなコンテンツをつくったら、面白いことができる」という発想なら僕はできる。的確な人選もできるし、そのための人脈もある。そのキャスティングで成功させられるという自信もある。
日頃のミーハー力で培った情報のアンテナと「今、この人が旬」というキャスティングセンス、そして人脈が結びつけば、新しいものがそこに生まれる。

 本書を読めば、この言葉の説得力に頭が下がる。「こんな生き方が、仕事の仕方があるのか……」。そんな感嘆がもれ出る。

 なにより感じるのは、やはり中村さんも「ミーハー」で「スペシャリスト」ということだ。自身が「スーパーミーハー」であるために、常に流行りの情報をチェックし、誰かを惹きつけるだけの情報発信を行い、誰にでも好かれるように自身の行いをチェックし、常に自身を律しているのではないか。

 ミーハーでありジェネラリストであり、それが「スーパー」になるまで極めたからこそ、前出の輝かしい経歴を獲得できたはずだ。やはりどの業界でも一線級で活躍する人々は、絶対に何かしら極めている分野がある。それが価値になり、ブランドになり、大きな仕事を引き寄せる。本書を読んで「うん、うん」と頷く自分を感じた。

 もし読者の中に「何も続かなくて飽きっぽい自分に困っている」「自分が何者にもなれなくて悲しい」という方がいたら、ぜひ本書を読んでほしい。今の時代を強く生きる方法が解説されている。「僕は典型的なミーハーだ。だからこそこんなことができる!」。そんな勇気をもらった気がした。

『中村貞裕式ミーハー仕事術』は、これからの時代を強く生きなければならない現代人の指針のひとつになるのではないか。

文=いのうえゆきひろ