ナイキの厚底シューズが世界を変えた! 新記録を乱立する「魔法のシューズ」の秘密

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更新日:2019/5/28

『ナイキシューズ革命  “厚底”が世界にかけた魔法』(酒井政人/ポプラ社)

 近年、マラソンの世界に大きな衝撃を与えているナイキの厚底シューズ「ズーム ヴェイパーフライ4%フライニット」をご存じだろうか。これまで、長距離ランナーの間には、マラソンに適しているのは、底の薄いシューズという常識があった。だが、ナイキの厚底シューズはその常識を瞬く間に打ち破ったのだ。

 2017年4月のボストンマラソンでは、このシューズを履いた選手が1~3位を独占。同年9月のベルリンマラソンでは、ケニアのエリウド・キプチョゲが世界新記録2時間3分32秒を樹立。日本選手においても、2018年2月には、東京マラソンで設楽悠太が日本新記録をマーク。かと思えば、同年10月のシカゴマラソン、大迫傑が設楽よりもさらに21秒早い2時間5秒50秒というタイムを叩き出し、日本新記録を更新した。

 いったいナイキのシューズは、他のシューズと何が違うのか。『ナイキシューズ革命  “厚底”が世界にかけた魔法』(酒井政人/ポプラ社)では、ナイキがイノベーションを起こし続ける秘密と、「魔法の靴」を取り巻く人々の熱狂に迫っている。

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「ズーム ヴェイパーフライ4%フライニット」は最も厚い部分で約4cmのソールがあり、大きなスプーン状のカーボンファイバー製プレートを特殊素材で挟む3層構造になっている。爪先がせりあがっているため、これを履いて重心を前へ傾けることで、前足部がググッと曲がり、もとのかたちに戻るときに、グンッと前に進むのだ。事実、シカゴマラソンを制したアメリカのゲーレン・ラップは、「まるで下り坂を走っているみたい」と表現している。

 型破りのシューズが誕生したきっかけは、キプチョゲなど、アスリートの言葉だったという。クッショニングがしっかり装備されているシューズがほしいとの要望があったのだ。マラソンに超高速化をもたらしたアフリカ勢は、未舗装の道でトレーニングを積んでおり、路面の硬いロードを嫌う。このためクッション性をもちながら、推進力も発揮できる新発想のシューズを作ることになり、「ズーム ヴェイパーフライ4%フライニット」は誕生した。

 この本を読んでいると、選手たちがいかに新記録実現に向けて努力を続けてきたか、そして、ナイキがその記録を支えるために、シューズの開発にどれだけ力を注いできたかということがわかる。そして、人間の走りに、限界はないのだろうと確信させられる。選手たちのたゆまぬ努力と、その努力を支える厚底シューズの存在。人類がフルマラソンで2時間を切る日は、そう遠くない。今までのマラソン選手たちの活躍と、ナイキの尽力を知れば知るほど、未来が楽しみでしかたなくなってくる。

文=アサトーミナミ