ヤンキーが声優界のテッペンを目指す! 青春お仕事ストーリー『ボイスラ!!』

マンガ

更新日:2019/6/13

『ボイスラ!!』(Octo/講談社)
『ボイスラ!!』(Octo/講談社)

 主人公が、それまで経験したことのない世界に飛び込み、並み居るライバルに競り勝って、スターダムにのし上がる──テッペンを目指す物語は、どんなジャンルでもおもしろい。けれど、ここで注目しておきたいのは、どんな主人公が、なにを目指すのかということだ。主人公になんの力もないのでは、その世界のトップを目指す説得力がなくなるし、だからといってトップを低く設定すれば、物語の盛り上がりが損なわれる。

 その点、『ボイスラ!!』(Octo/講談社)の主人公・獅子吼灯士郎(ししく・とうしろう)は、そういう物語の主役となるにあたって、文句なしのキャラクターだ。

 灯士郎は、そのガチヤンキーな風貌と低音の効いた声から、周囲に恐れられている高校生。中学生のときにヤクザからスカウトが来たとか、カツアゲする相手にはかならず火をつけるとか、さまざまな噂がひとり歩きしているが、その実、絵が得意な妹を溺愛し、放課後はアルバイトに精を出し、落し物は落し物箱に届けようとする、清く正しいヤンキーだ。

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 そんな灯士郎だから、学校でも遠巻きにされていて、ぶっちゃけて言えば友達がいない。唯一仲よくしてくれるのは、アニメオタクのポッチャリ男子・豊満(とよみつ)。灯士郎は、アニメに興味はないけれど、声優になりたいという豊満の夢は応援していた。

 が、ある日、豊満が衝撃の事実を口にする。いわく、声優養成所の入所オーディションに、灯士郎も応募してしまった。ひとりでオーディションを受けに行くなんて、緊張してとても無理だ──オーディションへの同行を懇願する豊満が差し出したのは、「VOICE ARTIST PLATINUM」、通称ボイプラの資料だった。声優の頂点を決めるイベントで、優勝者には、副賞として賞金1000万円が進呈されるという。

 1000万円。それだけあれば、絵の好きな妹を、美大に進学させてやれる。実は、灯士郎が学校帰りのバイトに勤しんでいたのは、4年間で1000万円になるという妹の学費を作ってやるためだったのだ。

 とはいえ、ボイプラの最優秀賞“プラチナ”は、その年、一番活躍したと思う声優を、完全ユーザー投票で決めるというもの。何万人もいると言われる声優のトップになるなんて、雲をつかむような話だ。しかし灯士郎は怯まない。夢はでっかく一攫千金、「ボイプラ1位目指そうぜ!!」。声優の世界に飛び込んで、テッペンを獲ると決意するのだが…!?

 熱心にアニメを見ているわけでもなく、台本の漢字でさえ満足に読めない灯士郎だが、彼は決して腐らない。他人を見下すこともなく、まっすぐに教えを請い、今の自分にできることを、みずから見つけて実行している。そんな彼に、成功してほしいと思わない読者は、きっといない。

 灯士郎はオーディションに受かるのか、オーディションで出会ったクールで不遜な実力派男子・雲類鷲司(うるわし・つかさ)は、相棒となるのか、ライバルとなるのか。そして灯士郎は、声優界のテッペンを獲り、1000万円を手にすることができるのか? ヤンキー×声優という異色の組み合わせで走り出した青春お仕事ストーリー、追いつくなら今のうちだ。

文=三田ゆき