女として満たされたい――。夫とのセックスレスに悩む人妻は、“贅沢”なのか

マンガ

更新日:2019/5/30

『夫を噛む』(水瀬マユ/小学館)

 女として満たされたい。切実な想いである。そんなささやかな願いさえ、人妻にとっては贅沢な望みなのだろうか。愛する人と結婚したはずなのに、満たされない、何かが欠けている。夫婦間における“レス”をテーマにしたマンガが登場した。それが『夫を噛む』(水瀬マユ/小学館)だ。コミカルで明るいテイストで人気の水瀬マユさんの新境地ともいえる作品である。

 夫の転勤に伴い地方都市に引っ越してきた26歳の藤花(とうか)、高校時代からの交際の末、現在の夫と結婚した25歳の和子(わこ)、ゲームやマンガの趣味は合う仲良し夫婦だが夜の生活は拒否され続けている28歳の結月(ゆづき)、15歳年上の夫を持ちながら出会い系アプリで若い男と逢瀬を重ねる29歳のレイ、それぞれがとある理由からの「セックスレス」に悩んでいる。

 絵はとにかくきれいでかわいい。過激になりがちなエロティックシーンも、光と影を巧みに操りながら、なまめかしさと色っぽさ、清潔感を保ちながら描き切る。何かを決心したときの女性の表情がとても美しく、読者に爽快感さえ与えるその手腕は実に見事である。コマ割り、セリフ回しも非常に丁寧で、4人の妻たちの寂しさとたくましさをさまざまな角度で表現している。各話のラストに、次のエピソードの主人公が紹介されるのもバトンタッチのようで斬新だ。全話において完全に夫を貶めるということもないので、恋愛作品として読めるところも魅力である。

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 レスや冷えた夫婦の会話は怖いくらいリアルだ。作者買いで本作を読み始めた読者も、次第に、4人の妻たちの置かれた境遇に共感していくだろう。読者が、同じような悩みを抱えた妻たちならなおさらだ。

 不倫をはじめさまざまなかたちで“夫を噛む”4人の妻たち。オムニバス形式のマンガかと思いきや、1巻・最終話で、4人の妻たちが出会い、つながりを持ち始める。4人の妻たちがどう交差し、ダメ夫・最低夫たちにどう噛みついていくのか。今後の展開がとても楽しみである。

文=水本このむ