ジャムからお酒まで! 梅を丸ごと使って健康生活をはじめよう

食・料理

公開日:2019/6/1

『今年こそ、梅しごと』(杵島直美/河出書房新社)

 毎年梅の実が出回る時期になると、何かしら作ってみたい衝動にかられる筆者だが、実のところ、過去に梅酒と梅サワーを2回程度作ったのみである。なんとも説得力に欠けるのだが、そんな筆者にとって「これはできそうだ!」と感動したのが『今年こそ、梅しごと』(杵島直美/河出書房新社)だ。まさに、今年こそ!という思いを代弁しているタイトルにもやられた。

 本書の何がすばらしいかといえば、4ページと5ページに登場する「梅しごとカレンダー」である。小梅、青梅、完熟梅、そして梅干し作りに欠かせない赤じその出回り時期や、レシピごとの漬け込み時期、食べ頃、食べ切る時期がひと目で見やすいようにカレンダーになっている。これがあるだけで、好みの梅の調達から準備の期間、いつから食べられるのかを視覚的に理解できるのはうれしい。漬け込んでから時間が経ってしまうと、いつまで食べられるのか、または飲んでいいものかわからなくなりそうだが、目安が見えることで消費するタイミングも読めるというわけだ。こうして見ると、梅はほぼ一年中楽しめることがわかる。

 梅と聞いてまず連想するのは梅酒と梅干し。本書を見て「できそう!」「わかりやすい」と感じたのは、それぞれのレシピに適した梅の種類や熟度の説明。梅の熟度は3段階に分けて紹介されており、写真入りで比較されているから見てすぐに判断できる。もっとも熟したものはおいしい梅ジャムになるが、梅干しはそれよりやや手前の完熟状態のもので、梅酒はもっと青い段階のもの。同じ梅でも微妙に時期を外してしまうとどんどん熟度が進んでいくし、梅酒やシロップ程度しか作れなかった筆者にとってはあきらめてしまうことも多かったが、これを見ると梅干しや梅ジャムにも挑戦したくなる。

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 梅干しは家庭によって作る量はさまざまかと思うが、本書では500g、1kg、3kgの3種類に分け、梅に使う塩の量、ホワイトリカーの量といった基本的な部分から、赤じそに使う塩の量や重石の重さまで見やすい表で紹介されている。手順も短い文章で区切られていてわかりやすく、注意したいポイントなどが必要な箇所に添えられている。無駄な説明がなく材料もシンプルで、初心者でも挑戦しやすいと思う。

 筆者にとって新鮮であり、親切だと感じたのは、梅しごとの合間にできる「初夏の保存食」の紹介だ。らっきょうの甘酢漬けや新しょうがの甘酢漬け、にんにくのしょう油漬けなど、副食として重宝する健康レシピも収録されている。そして、梅干しの副産物とも言える赤じそや赤じそ酢の使い道も紹介されているのがうれしい。しば漬けは以前違うレシピで挑戦したことがあり見事に失敗しているが、本書のレシピは内容が異なり、作りやすい。赤じそで作る「ゆかり」も新鮮である。ゆかりは市販のものをよく買うが、手作りとは考えたことがなかった。

 本書は「はじめてでもおいしい手づくり」のサブタイトルの通り、初めて挑戦する人でもわかりやすい解説が随所にある。梅しごとに使う調味料の解説もその一つだ。その中から、梅サワーなどに使う酢の解説を本書から抜粋して紹介しよう。

酢にはさまざまな種類があります。原料の違いで、穀物酢、米酢、黒酢、りんご酢、ワンビネガーなどがありますが、酢漬けには穀物酢で充分。くせがなくストレートな酸味で、お酢の中でももっともなじみのある味。梅など素材の風味を生かすには、手軽でくせのない穀物酢がいちばんです。

 梅はポリフェノールやビタミンEなどが含まれ細胞をきれいにする効果が期待できる。梅干しには食欲の増進や消化を助けてくれるクエン酸が多く含まれ、また適度な塩分は熱中症対策の一つとして夏には欠かせない。今年こそ梅しごとに挑戦して、夏に備えたいものだ。

文=いしい