プリンタみたいに簡単に「食品」を出力することが可能に! 未来の食事を覗いてみた

スポーツ・科学

2019/6/4

『「食べること」の進化史』(石川伸一/光文社)

 料理レシピ検索サイトで、検索窓に最も多く打ち込まれるワードは「簡単」なのだそうだ。「食材名」でも「調理法」でもなく、「簡単」。「簡単×料理名」「簡単×食材名」といった組み合わせでレシピが検索されているというが、これは、共働き世帯ができるだけ家事を時短化したいといった、現代の生活事情なども反映しているのだろう。最近は外食や中食のバリエーションも増えているし、調理器具の進化も著しい。私たちが日々当たり前に行っている「食べること」は、時代とともに日々変化しているのだ。

『「食べること」の進化史』(石川伸一/光文社)の著者は、「調理を分子レベルで理解し、料理に対する科学的な知見を集める」という学術分野である「分子調理学」が専門の大学教授。本書は、培養肉や昆虫食といった、最近話題の食材トレンドを紹介しつつ、「料理」「食×身体」「食×心」という3つの視点から、それぞれの「過去・現在・未来」を説き起こすことで、私たちと「食」との密接な関わりに迫る1冊である。本稿ではその中から、食べることの「未来」について少し紹介したい。

■プリンタのように簡単に「食べ物」を出力することが可能に!

 最近では家電量販店でも見かける3Dプリンタだが、これを食品づくりに応用した「3Dフードプリンタ」をご存じだろうか。カートリッジに、タンパク質や脂肪といった栄養素や香料をセットし、ピザなどの食品を立体的に「出力する」というものだ。2013年にNASAが宇宙飛行士の食事のために、3Dフードプリンタを開発する企業へ資金提供をしたことで注目を集めた。

 3Dフードプリンタがあれば、宇宙に限らず被災地や貧困地といった場所でも、いつでも即座に多様な食品を作れることになる。また、コストなどのハードルをクリアして一般に普及すれば、外食産業や家庭料理の定義も変わるだろう。まさに「万能調理器」として社会を大きく変える可能性を持っているのだ。未来では、「自分で材料を準備して調理する」ことが、非日常で特別なものになっているかもしれない…。

■人工的な「培養肉」の普及を妨げているのは?

 2013年にオランダの生理学者たちが、牛の幹細胞を培養して作った筋肉細胞に、パン粉や卵を加えて味を整え、牛肉パテを作ったことがニュースになった。いわゆる「培養肉」だ。このための専用施設があれば肉が手に入るため、食糧不足や環境問題といった地球規模の問題を解決できる可能性を持っている。

 一方、培養肉を「人造肉」と呼んだり、培養肉を用いたハンバーガーをフランケンシュタインになぞらえて「フランケンバーガー」と呼んだりする動きもある。これまでなかったものに対する不安感や、人が「造った」肉という存在に対する倫理的アレルギーがあるのだろう。

 世界の主要な宗教において、食べ物は「神」や「自然」から与えられるものという考え方がある。これに照らし合わせると、培養肉はタブー視されるのかもしれない。テクノロジーの進化とともに、食の倫理についての議論も、今後十分に尽くされるべきだろう。

■「食べること」の未来を見据えてみると――

 本書では、人類が植物を採取し、道具を用いて動物の狩りを行ってきた太古の昔から、缶詰などの保存技術が発達した近代、そして現代の食を通じたコミュニケーションのあり方など、多岐にわたる内容についてわかりやすく章立てしながら紹介するものだ。そして随所に描かれた、動物たちをモチーフにしたとても可愛らしいイラストやマンガの数々は、内容をわかりやすくフォローしてくれる。本書は、食べることに関心が高い人はもちろんのこと、テクノロジーの進化に興味がある人にもおすすめだ。

 本書では、テクノロジー一辺倒ではなく、食べることが人にもたらす心理的な影響や、食べることに対する人の価値観などについても、丁寧に説かれている。時代を問わず、食べることの根幹にあるのは「人」だ。いくらテクノロジーが進化しても、それが人の心に響かなければ、必要とはされないだろう。

 私たちは未来に向けて何をつくり、何を取り入れていくのか。本書を手に取り、私たちの最も身近な行為である「食べること」を切り口にして考えてみるのはいかがだろうか。

文=水野さちえ