35歳マジメ女子。友人の披露宴での出会いは運命…? 叶う恋も叶わない恋もいとおしい“はじめて”物語

マンガ

公開日:2019/6/5

『はじめてのひと』(4)(谷川史子/集英社)

 少女漫画は大好きだけれど、ときどき「ちぇっ」と思ってしまうことがある。どんなに難しい恋のはじまりだったとしても、お話はたいていハッピーエンド。かわいくて素直なヒロインが、素敵なヒーローと結ばれる。でも、現実のわたしはかわいくないし、素直じゃないし、甘えるなんてできないし。結局こんなのは作り話だ、人生はこんなふうにうまくいかない…そう感じる人にこそ、『はじめてのひと』(4)(谷川史子/集英社)を読んでほしい。

 本作は、とある博物館に関わる人たちの日々を描いた、オムニバス形式の物語だ。

 第4巻のメインキャラクターは、博物館に勤めるマジメ女子・北別府美登利、35歳。結婚式には、20歳のときにはじめて招待されてから15年、ひたすら招待される側でいる。けれど美登利は、何度結婚式に出席してみても、自分の結婚をイメージできない。職場である博物館で、恐竜の骨の下に座っているのが好きだ。頭の中をからっぽにできる、ランニングという趣味もある。経済力と健やかな体さえあれば、ひとりでも楽しく過ごせるものなのだ。

advertisement

 もちろん、「この人と一生を共にしようと思えるのは 素敵なことだと思う」。しかし自分の人生に、そういった縁は薄いのだ──そう思いつつ出席した、友人の披露宴の帰り道のことだった。美登利は、披露宴の出席者の男性とぶつかり、転んでしまう。

 運命的な出逢いかと思えど、美登利も友人の志津香も、この出逢いを積極的に次につなげようとするタイプではなかった。だから結婚に縁遠いのかもしれないと納得するふたりだったが、美登利が帰宅してみると、引出物の袋の中には社員証が。さきほど披露宴会場でぶつかった男と、荷物を取り違えたらしい。幸い社員証の裏には、「花房一陽」という名前と電話番号が書かれた名刺が入っていた。社員証がなければ困るだろうと、美登利は一陽に連絡を取るのだが…。

 社員証のお礼にと誘われたカフェでたがいの仕事について語り合い、見た目からして社交的で朗らかな一陽が、意外にも自分と同じようなことを考えていると知る美登利。わかり合えた瞬間の彼の笑顔に惹かれるが、そこで一陽に、彼女からの電話がかかってくる。

 彼と話をして、楽しかった。いいなあと思ったとたん、彼女がいることがわかった。「少女漫画みたいな偶然は 少女漫画のヒロインのような女性にしか意味を成さないことを 私は知っている」。一陽と出逢ったことは、一瞬の目眩みたいなものだ。今まで通り、毎日をがんばって暮らしていれば忘れられる──そう考えて、趣味のランニングに没頭していた美登利だが。

 人生は、漫画みたいにうまくはいかない。だからこそ、叶ったり叶わなかったりする本作の恋は、わたしたちに寄り添ってくれるのかもしれない。叶った気持ちは、ふたりで歩む人生という現実を連れてくる。叶わなかった想いは、ひとりで歩く道の糧となる。それを少女漫画で学べるからこそ、女の子は、どんなにつらい思いをしても、現実に、また新たな恋ができる。

“はじめて”をめぐるシリーズ連載、待望の第4巻。やさしい絵柄で丁寧に綴られる等身大の恋に、しみじみ励まされてほしい。

文=三田ゆき