職場の空気、人の目、見栄の「モヤモヤ」はこうやって振り切ろう。こだわりを捨てるメリットとは?

ビジネス

公開日:2019/6/5

『なにものにもこだわらない』(森博嗣/PHP研究所)

「こだわりの逸品」と聞くと、腕利きの職人やシェフの力作といった印象を受ける。こだわりは良いもの、そんなイメージを持っている人は多いはず。しかし、漢字では“拘り”と書く。拘束や拘留という言葉があるように、そこには自由を制限し、何かに囚われているネガティブな意味も…。

 さて、こだわりは悪いものなのだろうか。また、こだわらないことにはどんなメリットがあるのだろうか。そんな疑問に答えてくれるのが、『なにものにもこだわらない』(森博嗣/PHP研究所)だ。

 著者は近年アニメ化やドラマ化もされた小説『すべてがFになる』などで知られる作家の森博嗣氏。工学博士でもある森氏の鋭敏な洞察力と思考が詰まった本書は、自分だけの楽しさを見つけるコツや、柔軟な発想をするためのヒントを与えてくれる。

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■「こだわり」が人に悪影響を及ぼすのはどんなとき?

 自分がこれだと思ったことに注力して諦めずやり遂げれば一定の成果に結びつく。「継続」という意味でのこだわりについては、著者はある程度必要だろうと語る。こだわりが悪影響を及ぼすのは、人が過去にこだわるときだ。

 周囲から評価が得られると、人は保守的になりがちだ。評価を下げないよう同じ手法に固執したり、次の手が出しづらくなったりする。例えば、芸人がウケるからと、毎回同じネタを繰り返せば、当然つまらなく感じる。鮮度が落ち、マンネリ化すれば、次の成長や変化は訪れにくくなるだろう。

 反対に、新しいものを見据え、より良いものを求め続けようとすれば、苦労した分のチャンスが舞い降りてくるものだ。面倒くさがりで、新しいことに気後れしてしまう人にとっては耳に痛い話かもしれないが、これがきっと核心だろう…。

■居心地の良い「こだわり」を振り払うには――

 こだわり続けると損をする。ではなぜ、人はこだわりを捨てられないのだろうか。著者曰く、こだわりを持ち続ける限り、人は楽をできるからだ。新しいことは、面倒や失敗があり、時間やお金もかかる。反対に、変化を求めず、今まで通りに過ごしてさえいれば、余計なストレスを感じない。こだわりは居心地の良さをもたらす。簡単に手放せないのも納得だ。

 しかし、安定や快適さに身を任せているだけでは、自分が本当に望むものは手に入らない。空中ブランコのごとく、勇気を持ってこだわりを手放し、新しいことにチャレンジする。それが人に、今までの生活にはない、楽しさをもたらすのだ。

 例えば、弾き語りに憧れてギターを始めたとしよう。ギターを買う、演奏の仕方を覚えるなど、お金・時間がどちらも必須だ。練習が面倒だと思う瞬間が何度もあるはずだ。

 けれども、ギターの練習に夢中になっているときには、きっと苦労は感じない。むしろ、楽しいと感じられ、目標にたどり着かなくともその過程で得られるものがある。それに、他者から与えられたものでなく自分が見つけた楽しさは、他とは比べられない喜びが感じられるはずだ。

 そうは言っても、新しいチャレンジに対して腰が重く感じてしまうことはある。筆者のような横着者は、どうすればよいのだろうか? 本書によると、こだわりを手放すには、どんなことにこだわりをもっているかを自覚し、自分が見ていない部分に目を向けることが必要になるという。車の運転に例えると分かりやすい。

“運転に要求されるのは、視点をつぎつぎと移し、できるだけ多くのものを見ていく(スキャンする)ことであり、そのつど、何が危険か、次に何がおこるか、という思考を保持することである。”

 自分を客観視して、その場その場で考え続ける姿勢が、なにものにも囚われない臨機応変な発想力を鍛える。そして、この発想力が、自分だけの楽しさや、他者が真似できない個性のルーツに繋がっていくという。

 これまでは「発想力を養え」「個性を持て」と言われてもピンとこないことが多かったが、「こだわりを捨てること」が、謎を解く鍵だったというから驚きだ。

「なにものにもこだわらない」ことを、若い頃からモットーとしてきた著者。本書はその積年の経験や想いが詰まった1冊となっている。

「最近楽しいと思えることが少なくなった」
「自分の考えがなく、流されて生きている」
「自分がどんなこだわりを持っているのだろうか」
あなたのそういったぼんやりとした悩みに、本書は答えを導き出すサポートをしてくれるだろう。

文=冴島友貴