20股男に神がくだした罰と試練――真実の愛を見つけなければ60日後に死ぬ!? 水野敬也解説つきの新感覚コミック

マンガ

更新日:2019/6/6

『愛せなければ死ぬ 60日間で本当の愛を見つける方法』(坂野旭/文響社)

 何股もかけて浮気する人を見ると、怒るより前に、元気だなあと感心してしまう。お互い了承した上ならともかく、真剣な付き合いを求められている場合、相手に向き合う行為は、感情の消耗につながるだろうと思うからだ。それでももし心を痛めずすりへらすことなく楽しんでいるのだとしたら、よほど要領がよく、かつ相手に心を注いでいないからだろう。マンガ『愛せなければ死ぬ 60日間で本当の愛を見つける方法』(坂野旭/文響社)の主人公・東雲隆一のように。

 隆一は、とにかくモテる。モサくてダサくて馬鹿にされていた過去を脱ぎ捨てて、どんな女性もオトせる男へと昇格した努力は素直にすごいし、浮気がバレない配慮もご苦労だと思うが、さすがに20股はやりすぎだ。本人も「いつか神様のバチが当たらないか心配だ」と悦に入っているところに、現れたのが天使のアモネ・クライネ。彼女が放った天使の矢に射抜かれた隆一は、余命60日を宣告されてしまう。助かる方法はひとつだけ。本当の意味で、人を愛すること。かくして「愛」をカン違いしている隆一の、命をかけた愛探しが始まった――。

 というのがあらすじなのだが、本作がおもしろいのは、隆一が奮闘する合間に愛に関するコラムが挟まれることである。執筆者は、『夢をかなえるゾウ』でおなじみ、水野敬也氏。マンガと呼応して、読者にさまざまな愛の格言や真理を教えてくれる。

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 たとえば〈他人を自分自身よりも愛さないならば、ほんとうの意味で自分自身を愛することはできない〉という、神学者・エックハルトの言葉。だいたい、他人のちょっとした言動にすぐ怒っている人は、自分のことも肯定してあげられないことが多い。逆もしかりで、やたらと他者に迎合する人はおそらく、自分を受け入れてほしい人なのだろうし、他人に怒りっぽいのはありのままの自分を受け入れてもらえない反動かもしれない。ドイツの心理学者・フロムによれば、ありのままの自分に自信がもてない人は異性からの評価によって自分の価値を感じようとするそうだが、根本にあるのは承認欲求だ。モテなかった過去を、20股という成果によって覆そうとした隆一と同じである。目的が「モテること」「自分を肯定されること」だから、女の子たちとの付き合い方も、相手に好かれるためのテクニック駆使に終始する。

 浮気も気づかせないし、相手を心地よくさせている自信のある隆一は、それを愛だと錯覚する。だが、ひとりめの彼女・麻衣子が健気なのは隆一がかっこいいからではなく、隆一の言葉に救われて感謝しているからだと知ったとき。人気モデルの晴美が自分に求めているのは、イケてる彼氏と過ごす癒しの時間ではなく、どこにいても消せない孤独を埋めてほしいからだと気づいたとき。相手のうわべしか見ていなかったときには、決して踏み出せなかった行動に出る。そうして少しずつ愛を知り、罪の重さを和らげていくのだ。

 とはいえ、登場した彼女はまだ2人。残り18人とは途方もないが、全員と向き合い、それぞれと真実の愛を見つけていく隆一を通じて、読者である私たちも、自分が本当に身近な人を愛せているのか、心の内側を見つめてみたい。

文=立花もも