池袋ほか多発する高齢ドライバーの事故原因はこの3つ! 免許返納以外に対策はあるのか?

社会

2019/6/8

『高齢ドライバー』(所正文、小長谷陽子、伊藤安海/文藝春秋)

 2019年4月に東京・池袋で87歳の男性が運転する車が暴走し、2人の死者のほか多くの怪我人を出した事故は記憶に新しい。これ以外にも、高齢ドライバーによる事故のニュースが、連日のようにメディアで報道されている。死傷者を出すような重大事故に限らず、高齢者が運転する車が高速道路を逆走したといったニュースもよく目にする。

 そのように現在社会問題となっている高齢ドライバーによる交通事故について、「なぜ事故が多発するのか?」、「それに対して社会はどのような対応をすればよいのか?」というテーマを3人の専門家が掘り下げるのが、『高齢ドライバー』(所正文、小長谷陽子、伊藤安海/文藝春秋)だ(著者らのそれぞれの専門分野は、所が産業・組織心理学と生涯発達心理学、小長谷は認知症介護、伊藤は交通工学、医工学、法科学、人間工学である)。

■高齢者が事故を起こしやすい3つの原因は?

 高齢ドライバーが事故を起こす原因は、加齢による視力(視野を含む)の低下、反応能力の低下、および長年の運転経験からくる自分の運転能力に対する過信の3点が大きいという。事故の多発を受け、2017年3月には改正道路交通法が施行され、75歳以上のドライバーに課せられている高齢者講習での認知機能検査が強化された。

 意外と語られていないことだが、年間の交通事故死者数そのものは年々減少している。1970年には年間交通事故死者数は1万6765人もいたが、2016年には4000人を切っているのだ。そして高齢ドライバーも若年ドライバーも、事故を起こす確率は、実はそれほど変わりはない。それなのに高齢ドライバーの事故が目立ってしまうのは、単純に日本が超高齢社会となり、運転者のなかで“相対的に”高齢ドライバーが占める割合が増えているからだ。

 2016年時点で65歳以上の高齢者数は3461万人、日本人のおよそ4人に1人は高齢者となっている。つまり、大ざっぱにいえば、現在車を運転している人の4人に1人は高齢ドライバーなのだ。そして、今後ますます高齢者の割合は増えていくいっぽうである。

■高齢者の「免許自主返納」はなぜ進まないのか?

 このような状況に対して、高齢者が免許を自主返納するよう促す動きも強まっていることは皆さんもご存じだろう。しかし、車の運転をしなくても生活していけるのは東京や大都市のような一部都市圏だけだろう。地方では、買い物に行くにも、病院に行くにも車がなければどうにもならないという地域は非常に多い。

 本書には、地方で離れて暮らす認知症の両親に免許の返納をさせたという娘の実例が載っている。これを読むと、買い物は生協の宅配サービスを娘が東京からインターネットで注文できる態勢を作り、市が高齢者向けに配達する弁当を週3回手配、さらには介護タクシーの依頼にいたるまで、車がなくても暮らしていける環境を離れて暮らす娘がすべて整えた上で返納を実現させている。逆にいえば、ここまで周囲がおぜん立てをしなければ、現実問題として、地方で暮らす高齢者に免許を返納してもらうことは難しいだろう。

 では、どうすれば高齢ドライバーの事故を減らせるか? 本書ではさまざまな角度からの提言がなされているが、そのなかでも大きなものは「道路インフラの早急な整備」である。たとえば、きっちりと車道、歩道、自転車道を分けた識別しやすい道路をつくる、車のスピードを抑えるために一定間隔ごとに道路上にハンプ(こぶ)を設置する、交通量の多い交差点に右折信号機をつけるなどすれば、事故は確実に減らせると本書は指摘する。もちろんこれは、高齢ドライバーに限らず、全世代の交通事故を減らすことにもつながるだろう。

 高齢ドライバーの事故多発問題は、車の自動運転が完全に確立される未来に至るまでの過渡期的な問題かもしれない。しかし、だからと言って放置しておくわけにはいかないし、無理やり高齢者に免許を返納させることも現実的ではない。社会全体でできることをひとつずつやっていくしかないということを実感する。

文=奈落一騎/バーネット