他人と比べて悩んだって仕方がない! 「自分の幸せをはかるものさし」を手に入れよう

暮らし

公開日:2019/6/12

『比べて悩んで落ちこんで』(いしいまき/ベストセラーズ)

 人間社会というものは、人との関わり合いで成り立っている。一方で「他者」の存在は自分にとっての「比較対象」にもなりうるわけで、場合によっては「優劣」が決められてしまうかもしれない。そして人によっては自分と他人を比べ、劣等感を抱いてしまうこともあるだろう。そういう「負の感情」はどこかでリセットできればよいのだが、延々と引きずってしまうという向きも多いはず。一体どうすればリセットできるのか。『比べて悩んで落ちこんで』(いしいまき/ベストセラーズ)では、常に人と比べて落ち込んでしまう状況だった作者が、なんとか心の平穏を保てるようになるまでを描いている。

 作者によれば、他人と比較してしまうようになった根本の原因は「父親」であるという。彼女の父親は九州男児の長男であり、昔ながらの「一家の長」であった。ささいなことで家族を怒鳴り、作者とその弟妹はいつもビクビクして過ごす日々。そんな父親に好かれようと、作者は「いい子」であろうと努力するようになった。そこから彼女の「理想の自分」と現在の自分の比較人生が始まるのだ。

 しかしそう簡単に「理想の自分」になどなれるはずもなく、できない自分に落ち込む「負のスパイラル」が続く。さらに学校にもうまく馴染めない作者だったが、中学校のときに在籍した美術部には救われたという。作者は漫画家になりたいという夢を持っていたので、その美術部はとても居心地がよかったのだ。しかし自分に自信がなかった彼女は美術科のある高校ではなく、別の進学校へ進んでしまう。「理想の自分」を追う負の連鎖を断ち切れないまま、高校卒業の後に短大へと進む作者。しかしついに、その精神は限界を迎えてしまう。課題での居残りや、バイトの失敗などうまくいかない日々の連続で、作者は「うつ病」になってしまったのである。

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 うつ病で休学となり、周囲のすべてが信用できなくなっていた作者。そんな彼女を救うきっかけとなったのは、彼女が嫌っていたはずの「父親」だった。取り乱す作者に対し、父親は彼女を抱きしめて声をかけたという。それはおそらく作者が初めて感じた父親からの「優しさ」。「わたしが欲しかったものって、これだったのかも」と涙ながらに思う作者であり、そこから徐々に彼女のうつ病は回復していったのである。

 結局「向いてないこと、嫌いなこと」を無理してやっていたためにうまくいかないことが続き、それがストレスとなってうつ病になったと作者は考える。うつ病がよくなったのも、父親の優しさに触れ、さらに本屋でバイトをすることで、仲間と大好きな本の話をすることができたからだ。「嫌いなことは頑張れないけど、好きなことなら頑張れる」ということが、うつ病の苦しさから得た彼女なりの答えだったのである。

 この後、夢が叶って漫画家となった作者だったが、他人と比べて落ち込む思考は相変わらずだった。しかし「比較人生」に疲れた作者はようやく「わたしはわたしのペースでやる」という境地に至る。彼女はこれまでの人生を経て、「自分の幸せをはかるものさし」を手に入れていたのだ。このおかげで、比較する癖は直らなくても、すぐに立ち直れるようになったのである。

 人間社会で生きる以上、他人と比較して羨ましく感じることは必ずある。しかし「自分の幸せをはかるものさし」があれば、必要以上に比べて落ち込むこともなくなるだろう。自分の好き嫌いを知り、自分のできる範囲で頑張ることが大事なのである。もし他人への劣等感で悩んでいるなら、まずは他人より「自分」のことを考えよう。自分なりの「幸せをはかるものさし」を手に入れることができれば、きっと劣等感から解放されるだろうと本書を読んで感じた。

文=木谷誠