人生後悔しないための「大人の遊び方」――思わずはっとする伊集院静の言葉とは?

文芸・カルチャー

2019/6/13

『一度きりの人生だから 大人の男の遊び方2』(伊集院静/双葉社)

 作家・伊集院静の最新エッセイ集『一度きりの人生だから 大人の男の遊び方2』(双葉社)は、旅、読書、手紙などにおける氏の「流儀」や、著名人の出会いと交流、そして日々の生活について綴られた1冊である。

 バラエティに富んだテーマの中でも、興味深かったのが、旅とファッションについてだ。

 まず旅についてだが、役に立つアイテムは何だの、細々としたトラブルの対処法といった具体的なマニュアル的内容はほぼない。主に触れられているのは「なぜ旅をするのか」「旅によって何を得られるか」という話である。

 と言われると、なんだか若者向けの内容のようにも感じられる。いや、実はその通りで、氏は若い頃に旅をして、それまでの自分と全く関係のない場所で、異文化に触れ、様々な経験をし、「自分はどこの、何者でもない」ということを知る意味と大切さを説いている。

 では、若くなければ、その話は役に立たないかといわれれば、そうでもない。「自分はどこの、何者でもない」と実感することは、年齢を重ねてからも、必要な場面はやってくる。

 それは、勤めを辞めたり(辞めざるを得なかったり)、あるいはリストラなどで「肩書きのない自分」になってしまった時。そこで過去にすがるか、「自分はどこの、何者ではない」ことを受け入れられるかで、その後に人生の充実度は変わるのだという。その意味、そして若者ではない人間が意味ある旅をするための心構え、ある種のコツ、そして旅そのものの魅力についてのパートは、不安定な今の時代だからこそ、読んでもらいたい内容である。

 一方、ファッションについては、様々な「大人のおしゃれのコツ」もさることながら、少々意外な一節に気を惹かれた。それは「いくら歳を取っていても、その時代の流行から外れるのはよくない」「ジミでイイと思っているが、流行遅れのものを平気で着るような感覚はダメだと考えている」といった、ある意味での、新しい時代へのスタンス。自身の「流儀」を貫く氏だけに、その柔軟ともいえる姿勢は少し意外でもあると同時に、氏が人生を楽しめている理由の一端がうかがえた気がした。

 そういえば、過去、氏は電子書籍のエッセイを書き下ろして発表したことがあったが、揺るがない芯がある一方で、時代への向き合い方は、イメージよりもずっと進取、なのかもしれない。

 とはいえ、各エッセイで披露される、人生の達人たる氏のスタイル、生き方、あるいはアドバイスの数々は、すべてを真似ようとしても、思い通りにいかない現実を生きる多くの人々にとって、なかなか難しいであろう。

 ただ、実現は難しくても「こうありたい」という希望や夢を抱くことは、心の支えになり、苦境と戦う糧になってくれる。その点で本書は、「大人の生き方の指南書」という文字が帯にあるものの、具体的な方法論というよりも、生きる活力を与えてくれるタイプのエッセイに感じる。それは幼い頃に抱いたヒーローへの憧れのような感触に近い。気苦労絶えない日々に疲れたときこそ、効果がありそうだ。

文=田澤健一郎