「性」は「心が生まれる」と書き、愛情ある「性」は心を満たす

暮らし

公開日:2019/6/14

『中高年のための性生活の知恵』(日本性科学会セクシュアリティ研究会/アチーブメント出版)

 国内で行なわれた夫婦の睡眠に関する調査によれば、一緒に寝ている夫婦は4割近くで、そのうちの3割が睡眠時にストレスを感じているそうだ。つまり夫婦で一緒に寝ていると夫婦関係が悪化する可能性があり、睡眠の質は寿命にも影響するとされているから、夫婦は一緒に寝ないほうが良いのかもしれない。一方、日本人は諸外国と較べ夫婦の性交が極端に少ないというデータがあり、心理学的には肌を重ね合うことは親愛度を深めるのに役立つそうなので、夫婦円満のためには一緒に寝るのが良いようにも思える。となると夫婦は寝室を分けつつ、しかし性生活は保つのが理想のようであるものの、前述のように日本人はただでさえ性交が少なく、中高年ともなればなおさらだ。私も40代後半にさしかかり、さてどうしたものかと考えていたところ、『中高年のための性生活の知恵』(日本性科学会セクシュアリティ研究会/アチーブメント出版)を見つけた。

 執筆者たちは、日本性科学会の下部組織のセクシュアリティ研究会に所属している産婦人科医や臨床心理士などで、「中高年期のセクシュアリティの質が、それ以降のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に多大な影響を与える」という確信のもと、調査研究によるエビデンスに基づいた情報の発信のために活動しているという。そして、夫婦やカップルの間で性のすれ違いが生まれる原因を、本書では端的にこう記している。

 男性は、中高年期の女性の心と体の変化を知らない。
 女性も、中高年期の男性の心と体の変化を知らない。

 本書でも詳しく解説されているが、最近では女性と同様に男性にも更年期障害が起こることが知られるようになってきている。しかし執筆者の一人は、心の悩みは精神科に相談するとしても、性について心と体の双方を結びつけ医学的な解決策を提示するような「セックス科」という診療科目が無いことを問題視している。なにしろ大学の医学部はもちろん、その後の研修期間にもセックスについて勉強する機会は極めて乏しく、産婦人科の医師ですら相談した中高年夫婦に「まだ、そんなことをしているのか?」とバカにしたかのような言葉をかけたなんて話もあるという。友人知人に相談しにくいのに、医学的知識を備えているはずの専門家にさえ相談できないのが現状なのだ。

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 セックスのハウツー本は巷に数あれど、第2章の「生理学からよみとく中高年の性」のように、女性側の性交痛や男性側のEDの治療法などにまで踏み込んだものは、あまりお目にかかったことがない。70代の女性の性交痛が改善した事例には正直驚いたし、EDの治療薬バイアグラの体へのリスクは、まったくの誤報だと知って安心もした。また、セックスの最中に心筋梗塞などの発作を起こす、いわゆる「腹上死」は医学的には「性交死」と呼び、その多くは「非配偶者とのセックスで起こっています」とのことで、循環器学会などは「セックスは慣れた人とする」のを推奨しているのだとか。アンケート調査の回答で「夫婦間の性生活を重要と考えない人が増加している」のと並行して、「配偶者以外の異性との付き合いを容認する人が増えている」というデータが載っていたが、中高年の不倫や浮気は命に関わるのである。

 本書で紹介されているアメリカのシカゴ大学の調査によれば、「セックスの頻度と幸福度は週1回の頻度までは比例する」という結果が出ている。週2回したからといって幸福度が2倍になるわけではないのが面白いところ。長く深い付き合いのためには、ほどほどの距離を保ちながら触れ合うのが最適ということだろう。第3章には「性と心を解決する15の心得」が提案されており、その中の一つには「挿入にこだわらない」というのがあった。そのための具体的な対応策も示されているので、一緒に寝るかどうかは家庭の事情に合わせるとして、まずは本書を夫婦やカップルで一緒に読むのを勧めたい。

文=清水銀嶺