オトナ女子向け! 注目の新レーベルから、“あやかし”テーマの切な優しい物語が登場!

文芸・カルチャー

2019/6/22

『わが家は幽世の貸本屋さん ―あやかしの娘と祓い屋の少年―』(忍丸/マイクロマガジン社)

 様々なレーベルがしのぎを削るライト文芸ジャンルに、6月より新たなレーベルが参戦する。マイクロマガジン社が放つ、オトナ女子向け“ことのは文庫”だ。記念すべき第1弾『わが家は幽世の貸本屋さん ―あやかしの娘と祓い屋の少年―』(忍丸/マイクロマガジン社)は、あやかしをテーマにした、切なくも優しい愛情にまつわる物語だ。

 幼い頃に幽世こと、あやかしたちの跋扈する世界へ迷い込んだ人間の女の子、夏織。貸本屋を営むあやかしの東雲に拾われて、すくすくと成長した。20歳になった夏織はある日、行き倒れていた少年、水明を助ける。現世で祓い屋をしていた水明は、あるあやかしを捜して幽世にやってきたらしいのだが……。

 どこまでも天井が高く、図書館よりも蔵書数の多そうな貸本屋の内観。窓からは青色に染まった幽世独特の常夜の日射しが差し込んで、幻想的に光る蝶や海月が優雅に舞っている。木造の梯子に腰をかけるかわいらしい女性の傍らには、尻尾が3本ある黒猫が。そんな彼女を白髪の少年が、階上からじっと眺めている――。

 なんとも幻想的で美しい表紙イラストが、この作品の世界を鮮やかに表現している。

 人間でありながらあやかしたちから“稀人”と呼ばれ、慕われる夏織。あやかしでありながら夏織の義父となり、愛情を注いで育て上げた東雲。この父娘の生活に飛び込んできた水明は、祓い屋という職業柄か、あやかしを敵視している。一方、あやかしたちにとっても人間である水明は、文字どおり“おいしい”獲物だ。

 助けた行きがかり上、水明のあやかし捜しに夏織は協力を申し出る。貸本屋を訪れるお客さまからの悩みごとや依頼も受けながら、じょじょに距離を縮めてゆく2人。それは友情とも愛情とも、似た者同士の共感ともつかない、それぞれが幾分かずつ混ざりあっている感情のようにも見える。

 今や文芸における一ジャンルとして定着した“あやかし”を主題としながらも、本作から受ける印象は新鮮だ。主人公である夏織はあくまでも人間で、あやかしたちとなじんではいるが、自分はよそ者、半端者という思いが常に心の底にたゆたっている。

 彼らに対して恐怖を覚える瞬間や、その性質を理解できないと感じることもある。そんなとき、夏織はどうしようもなく悲しくなる。人間とあやかしは違う。決して同じにはなれないということを、否応なく実感させられる。そんな夏織の葛藤を間近で見つめるうちに、水明の心にも変化が起きていく。人間と同じように、あやかしにも色々なあやかしがいて、全てが全て敵ではないのだ……と。

 東雲をはじめ、夏織を囲むあやかしたちはいずれも個性的で魅力的で、それでいて異形の部分も確かにある。人間とあやかしは、本来ならば交わることはないけれど、こうして交わったからこそ気づけることもある。

 第4章で夏織が、あるあやかしに向けて語る言葉――それはまるで彼女自身が自らに宣言しているかのように、読む者の心にもまっすぐ響いてくる。

「大丈夫だよ。わかりあえる。私は、そう信じている」

文=皆川ちか