生死は殺し屋たちの気分次第!? 映像化不可能だったヤバイ小説『ダイナー』で味わえる未体験ゾーン!

文芸・カルチャー

2019/6/16

『ダイナー』(平山夢明/ポプラ社)

 この夏、映像化不可能といわれた問題作が映画化される。平山夢明のノワール長編『ダイナー』(ポプラ文庫)だ。なにせこの物語、「大藪春彦賞」と「日本冒険小説協会大賞」をダブル受賞した一級のエンターテインメント作品なのだが、とにかく登場するのは異様な殺し屋たちばかり、残酷でフェティッシュな殺しの場面が連続し、舞台が日本なのかも怪しくなってくるような過剰さが大きな魅力でもあるからだ。

 ほんの出来心から携帯闇サイトで募集していた運転手バイトに手を出しただけなのに、運悪くすぐに闇組織に捕まり凄惨な拷問を受けることになったオオバカナコは、生き埋めにされる寸前で必死に取りすがり、会員制の定食屋(ダイナー)の使い捨てウェイトレスとして売られることで生きながらえる。ボンベロという謎の天才料理人が取り仕切るその店「キャンティーン」は、プロの殺し屋たちが束の間の憩いを求めて集う食堂であり、客のご機嫌次第でウェイトレスの命など簡単に消されてしまうという地獄のような世界だった。突然落ちてしまった血まみれの奈落の底で、身体も精神もボロボロのカナコは生き延びることができるのか。来客を告げるチャイムを合図に重い扉が開かれ、カナコの運命を握る客が一人、また一人とやってくる――。

 血が噴き出すのは当たり前、頭部はぐしゃりと潰され、脳みそや内臓は飛び出し…そんな凄惨な情景が当たり前のように広がるクレイジーな世界で、冷静な魔王のようなボンベロは肉をミンチしパテを焼いてジューシィな肉汁が滴る極上のバーガーを作り出す。取り合わせのエグさに衝撃を受けつつ、次第に「人肉」と「食肉」の感触が脳の中でぐちゃぐちゃと奇妙に混ざり合い、やがてカナコ同様に殺しに無感覚になっている自分に気がつくことだろう。その不思議さと恐ろしさ。殺し屋たちの理不尽な異常さもヒリヒリとしたスパイスのように楽しめるとは、どんだけヤバい小説なのか。

 正直、読みながら頭の中で想像するだけでも刺激が多すぎるのに、この世界が視覚的に現れたらどうなってしまうのだろう…でもやっぱりそういう世界を見てみたくなるのが人の常。実は今回の映画化の前に漫画化は実現しており、現在『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で『DINER ダイナー』(平山夢明:原作、河合孝典:漫画)が大好評連載中だ(コミックス最新7巻は7月4日発売)。

 そして今回、満を持しての映画化。主演の藤原竜也(ボンベロ役)をはじめ只者ではない役者陣をズラリと配し、映画監督・写真家の蜷川実花がこの狂気の世界に挑んだ。やはり映像化は無理と思われていた『ヘルタースケルター』を大ヒットさせた蜷川だけに、今回も期待大。毒を含んだ艶やかな蜷川ワールドが、すでに公開中のトレイラー映像でも炸裂しているのでチェックするといい。

 だがその前に、原作未体験の方はまずは原作の文庫を手に取ることを断然おすすめしたい。自分の感性でどこまで脳内ジャンプできるのか、正直ここまでのチャレンジは滅多にできるものではない。さらに漫画や映画でプロのクリエイターのジャンプ力を味わえば興奮は2倍3倍に。この夏は、いつの間にか『ダイナー』の虜になっていることだろう。

文=荒井理恵