官能小説家の手の代わりをしているうちにムラムラしてきて…。『ポルノグラファー』

マンガ

公開日:2019/6/16

『ポルノグラファー』(丸木戸マキ/祥伝社)

「官能小説」と聞くといわゆる「エッチな小説」を思い浮かべるわけだが、じゃあそれを誰が書いているのか、と思うとなかなかイメージがわかない。ミステリアスな世界である。

 丸木戸マキ氏の描くBL『ポルノグラファー』(祥伝社)は、ある日主人公の久住春彦が自転車で小説家の木島(ペンネームは鬼島蓮二郎)に衝突し、怪我を負わせてしまったところから始まる。商売道具である右腕が全治1カ月。主人公は保険も入っておらず、お金もない。ちゃんと働いて治療費を払います、という久住に、木島は自分のところで働かないかと提案する。

 今月締め切りが3本あり、イメージは頭にあってあとは書くだけだという。木島が口で言葉にするから、代わりに原稿用紙に書き上げてほしい、というのが木島の案だった。これにより治療費は示談になる、ということで久住は即答で引き受けるのであった。

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 しかし、始まってみたら驚いた。たとえば木島の読み上げる文章というのは、このようなものだったからだ。

「光彦の唾液と自らの分泌物でぐっしょりとなった秘所に指をあてがい、見せつけるように割り開いた」
「光彦さん…来て! 奥の奥までもっとぐちゃぐちゃに犯して!」
「あああっ…アッアッ…い、いい…い…イクぅッ…」

 作家といえども、木島は官能小説家だった。恥じらうそぶりもなく、クールな表情で読み上げる木島に、久住は顔を真っ赤にしながら手を動かす。フィクションとはいえ、官能的な言葉を口にし続ける相手が目の前にいれば、変な気分にもなるだろう。次第に久住は彼の文章を書きながら勃起をしてしまうようになる。

 彼の腕が回復するまでの、期間限定のバイト。しかし、久住は木島のことを知れば知るほど心惹かれている自分に気づく。しかし木島はなかなか本心を明かさない。それどころか、担当編集の登場により、実は利き腕は左であることが発覚したり、謎は深まっていくばかりだ。

 木島はなぜこのような仕事を初対面だった久住に任せようと思ったのか。木島の心のうちが見えたとき、物語の様相はまるで変わる。切り口だけでいえば、ちょっとエッチなアルバイトだけのように思えるかもしれないが、最後まで読めばその構成や描写の巧みさに驚く。久住と同じように、読み手も木島に焦らされながら楽しめる作品だ。

文=園田菜々