法律で縛りたいから?子どものため?世間の目のため?愛の証?新時代にあえて選ぶ“夫婦”ってなんだ?

暮らし

公開日:2019/6/20

『夫婦ってなんだ?』(トミヤマユキコ/筑摩書房)

 昨今は女性の社会進出が進み、必ずしも昔のように男性に扶養されなければ生きていけない時代ではない。また、結婚しても3組に1組の夫婦が離婚する世の中だ。さらに、世を賑わす“夫婦”に関わるものといえば不倫やモラハラ、DVなどマイナスな話題も少なくない。しかし、一方では、ブームは去ったといわれながらも婚活する人は後を絶たず、なんだかんだいっても結婚して夫婦になる人は多かったりする。

 なぜ、時代が変わり社会の状況が変化しても、人は結婚し夫婦になろうとするのか。夫婦とは何なのか。

 そんな奥深い“夫婦”について真面目に、それでいて楽しみながら考えることができる本がある。『夫婦ってなんだ?』(トミヤマユキコ/筑摩書房)だ。著者は、もともと結婚願望を持っていなかったというトミヤマユキコ氏。結婚願望の強いバンドマンと出会い、とりあえず夫婦となったものの、既婚者に対する共感を持てずに戸惑っている大学教員兼ライターである。周囲のさまざまな夫婦を見て、夫婦とは何かがわからなくなり、わからないからこそ調べ、学んでみたいと著した一冊だという。本書では、時代とともに変化する結婚のスタイルや夫婦の在り方について、著者自らの実体験を交えながら、さまざまなテーマを通して考察している。

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 考察の材料として取り上げているテーマはジブリ作品やママタレ、映画、AI、皇族、年の差夫婦や仮面夫婦など、実在のものからフィクションまで幅広い。さらに、夫婦の専門家ではない素人だからこそ投げかけるストレートな疑問はユニークで、考察の切り口は斬新だ。

 たとえば、著者が注目したのがジブリのアニメ。ジブリというとヒロインの成長と自立が見所となっていて、どこに夫婦を考察する材料があるのかわかりづらい。しかし、著者は脇役として登場する夫婦たちに注目する。

 物語に出てくる夫婦たちは、ヒロインのように、いわゆる模範的な人物では決してない。むしろ、世間の考えるいい夫婦像を相対化するような人たちの登場により夫婦の在り方を問いかけていると著者は考察する。

 まず、思い出していただきたい。1984年の作品『風の谷のナウシカ』に登場するナウシカの両親を。ナウシカの心の傷となった幼い日の回想シーンのなかに母親が登場したのを覚えているだろうか。幼いナウシカから王蟲を取り上げた父親は風の谷の王らしい威厳ある態度で登場するのに対し、母親は父親の後ろにただ控えているだけ。その場にいたにもかかわらず、一切、口を出さず存在感は薄い。

 しかし、その後、1988年の『となりのトトロ』に登場するサツキとメイの両親を見ると夫婦の形は変わっている。強権的な夫は姿を消し、妻にも焦点が当たっているのだ。加えて、1989年の『魔女の宅急便』に登場するキキの両親や、キキがお世話になるパン屋の夫婦ともなると「夫に養われる存在」から脱却した妻と、それを嫌がらずコケそうになるシーンまで披露する頼りない夫という新たな夫婦の姿を見せる。さらに、1997年の『もののけ姫』に出てくる「たたら場」のトキなどは、夫に依存しない自立した労働者となり、夫をろくでなし扱いまでしているではないか。

 脇役として登場する夫婦たちの関係が実社会の夫婦像に重なり、夫婦の在り方を客観的に見ることができるとは驚きだ。本書では、夫婦という名の主従関係から解放させるものとは何かを、ジブリ作品に登場する夫婦たちの姿から考察している。

 ほかにも、日本の芸能界と夫婦の関係が色濃く反映されているママタレを“バリキャリ型”と“ゆるキャリ型”とに分け、それぞれが発信しているメッセージを考察してみたり、641股さえ可能とするAIのスケールの大きな浮気に驚かされながらも人工知能は理想の伴侶となり得るかについて考えてみたりと、目の付け所が面白い。

「夫婦ってなんだ?」

 もちろん、その答えはひとつではない。昭和が終わり、平成、令和と新しい時代が進むなかで、より夫婦の在り方や生き方の選択肢は広がってきている。しかし、かつての大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で独身女性やゲイ、イケメン、帰国子女の登場人物らとともに主役の2人を悩み苦しめた世の偏見はいまだ解消されたとはいえず、生き方の選択肢は広がりながらも生きづらさが消えていることはない。本書で著者とともに多様な夫婦の関係や在り方を考察しながら、改めて結婚や夫婦、自分らしい生き方について考えてみてはいかがだろうか。

文=Chika Samon