人はなぜ不倫をするのか? セラピストが見た不倫の真実とその答えとは

恋愛・結婚

公開日:2019/6/23

『不倫と結婚』(エスター・ペレル:著、高月園子:訳/晶文社)

 占い師の友人に「恋愛相談に来る7割以上が不倫の相談」だと聞いたことがある。私の周囲にも、かつて配偶者の不倫により離婚した友人や、今現在、不倫の渦中にある既婚・未婚の友人は複数いて、不倫は実に少なくない数で身近に当たり前のように存在している。

 現代の結婚(やパートナーシップ)は、ほとんどが個人の自由意志による恋愛の延長上にある。そして、家父長制などに代表される、結婚した夫婦を家や決まった型に押し込めるような昔ながらの慣習や考え方もしだいに薄れつつある。しかし不倫や不貞に対してはどうだろうか。芸能人や政治家が不倫していたことが報道されれば、世間からまるで犯罪者のように責め立てられ、当面の活動を自粛せざるを得ないくらいに糾弾される。恋愛や結婚のあり方については多様性が認められつつあるが、その反面、不倫についてはますますタブー感が増しているようだ。

『不倫と結婚』(エスター・ペレル:著、高月園子:訳/晶文社)は、心理療法士である著者が、自身が関わってきたカップルセラピーの例を挙げながら、不倫が持つ役割を多面的に分解し、人間の性愛について深く考察した一書である。

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 私たちが、不倫という問題に直面したときに必ず疑問に思うのは「なぜそんなことをしたのか?」ということだ。その問いに対しては、本書にはそれこそケースバイケースのさまざまな答えが載っているが、私が特に「ううむ、なるほど」とうなったのは、現代の我々は、結婚や結婚相手について過剰な期待を抱きすぎているのではないかというものだ。結婚相手は、親友であり恋人であり、絶対の理解者である必要があると私たちは思っている。

人々はかつて、結婚が愛と情熱を与えてくれるものではないから不倫した。今日、私たちは結婚が愛と情熱だけでなく、さらに脇目もふらず相手が自分だけに関心を注がないからと不倫する。

 個人的利益を重んじる現代に生きる私たちは、幸せになるべき存在なのだから、幸せにならなければならないという強迫観念のようなものを持っている。それは、結婚の動機にもなれば、不倫の動機にもなり、さらには離婚の動機にすらなるのだ。

 また、不倫は結婚に破滅をもたらすだけのものではない。むしろ、パートナーシップを新たな境地へと導くいわばカンフル剤のような役割を果たすこともある。セラピストである著者のもとを訪れたカップルの顛末については、破綻や修復、さらに新たな関係の構築まで、本当にさまざまなケースがある。

 本書は、不倫をすべて「悪」であり断罪すべきものとするのは間違っているのではないかという一視点を投げかけてくれる。ただし、決して不倫がよいものであると言っているわけではない。それは冒頭にある著者の言葉にも表れている。

不治の病になったことで人生がポジティブな方向へ一変するような経験をする人もいる。とはいえ私は癌になることを人に勧めないのと同じくらい、不倫することも勧めない。

 最終章では、お互いを監視し、自制しあうことではなく、相手を「永遠にとらえどころのない存在」だと認識することが倦怠を免れるひとつの手段であると語られている。もし、身近な人や、自分の伴侶との間に不倫という一大事が起きたときに、どのように向き合ったらよいのか。明確な答えがあるわけではないが、自分なりの道筋を考え、選んでいくヒントになるのではないだろうか。

文=本宮丈子