少女マンガ鬼畜No.1!? 死にたがりの少女がついに見つけた生きる理由――。歪んだ愛情を育む2人から目を離せない!

マンガ・アニメ

2019/6/24

『天堂家物語』(斎藤けん/白泉社)

 近年の少女マンガのなかで、鬼畜No.1なのでは? と思う人物がいる。『天堂家物語』(斎藤けん/白泉社)に登場する、名門天堂家の令息・天堂雅人(てんどうまさと)だ。とある娘を手に入れるため、連れ出した隙に家を燃やし、捨て子だった彼女の唯一の身内である“じっちゃん”の位牌を踏みつけにする非道っぷり。いま読み返しても、1巻の雅人はだいぶひどい。だんだん「この人にも、人の心があったのか……」と思う場面は増えてきたが、基本的にはやっぱりひどい。けれどそのブレない歪みっぷりに、読めば読むほど虜になってしまう。最新6巻でついに明かされた雅人の生い立ちと、天堂家に対する憎しみの理由を知るとますます、そうならざるをえなかった彼の境遇に思い入れてしまうのだ。

 くだんの「娘」こと、らんもそのひとり。「門をくぐれば生きては帰れぬ」と噂される天堂家に彼女が入り込んだのは、華族令嬢・鳳城蘭の身代わりなるため。雅人の婚約者になりすます彼女の目的は「人を助けて死ぬこと」。だが真実を見抜いた雅人に「死ぬ時は俺を助けて死ね」と命じられ、いつしか彼女の目的は雅人を守ることになっていく。それは、じっちゃんだけがよすがだった彼女にとって初めて見つけた生きる理由だった。

 尋常でない身のこなしと体術で雅人を守りながら生き延びてきたらん。そんな彼女とともに過ごすうち、雅人にとっても、らんは大切な存在になっていく。憎しみしかない天堂家のなかにあって、唯一、天堂家に染まっていない彼女の純真(すぎる)気性は、ほんのわずかに彼に憎しみ以外の感情をとりもどさせる。「じっちゃんに向けられた妄執を自分に向けさせることができたらおもしろい」という戯れは、いつのまにか雅人自身の、彼女に対する執着へ変わる。その過程が、愛おしいのだ。わかりやすい優しさも甘い言葉の一つもないが、それでも。

 ところが4巻で、雅人はらんを守るために天堂家から追い出してしまう。家を燃やされ、帰る場所のないらんは、じっちゃんの言い遺した友人のもとを訪ねる。そこには、普通の娘としての、危険のない未来が用意されていた。生まれてこのかた自分の名をもたなかった彼女が、自分だけの人生を生きるための新しい名前も。

 けれどらんにとっては、安全と安心を提供してくれる人のぬくもりよりも、死にたがりの自分を否定せず「俺のために生きて死ね」という雅人のほうが救いだった。じっちゃんからの名前ではなく、鳳城蘭という名を選び、雅人のために生きて死ぬと決め、らんは天堂家に戻る。彼女の徹底した覚悟に、雅人もまた、らんを自分の人生に巻き込む覚悟を決める。2人はそれぞれ、歪んだままで、2人にしか育むことのできない絆を確かにしていくのだ。

 物語はここから、本格的に始まるのだろう。実の兄である雅人の父を本気で愛し、雅人に執着する叔母。病弱で跡取りにはなれないとされている長男。雅人に執着しらんの命を狙う従妹、揉み消しや暗殺を担う天堂家家令の男――

 いろんな意味で決して甘くはない2人の、波乱の予感にまみれた先行きに今後も期待大である。

文=立花もも