核を超えた次世代の戦争、サイバー兵器の実態に迫る!! 水面下で繰り広げられる攻防戦

社会

2019/6/25

『世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器』(デービッド・サンガー:著、高取芳彦:訳/朝日新聞出版)

 中国の通信機器メーカーであるファーウェイの製品にセキュリティー上の問題があるとして、アメリカのトランプ政権は使用の制限を各国に要請し、グーグルがスマートフォンにおけるファーウェイへのサポートの停止を発表した。しかしながら、『世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器』(デービッド・サンガー:著、高取芳彦:訳/朝日新聞出版)を読むと、かりそめでも自由主義のアメリカと一党独裁の中国の、どちらに情報を抜き取られるのがマシかという選択でしかないことに気付かされる。ネット社会において、誰が敵か味方か分からないという混沌の中に自分たちが置かれていることを意識せざるを得ない。

 本書の著者は、取材チームでピュリッツァー賞を3度受賞したニューヨーク・タイムズの記者であり、おもに国家安全保障の記事を担当しているそうだ。2001年9月11日に同時多発テロが起きて以来、アメリカの諜報機関が議会に提出する年次報告書「世界脅威評価」における脅威リストの1位はテロリズムで、10年ほど前の2007年度版でさえサイバー攻撃については一言も触れられていなかった。ところが、トランプ政権が発足してから1年が経った頃に当時のマティス国防長官は「いまやテロリズムではなく大国間競争こそが、アメリカの国家安全保障における第一の焦点だ」と述べ、もっとも新しい戦場として「サイバー空間」を挙げたという。

 サイバー紛争のもっとも厄介な点は、戦時と平時が曖昧なことだ。現在も北朝鮮やイランの核開発が問題になっているのは核兵器が圧倒的な破壊力を持っているからであるものの、先に使えば報復によって自分たちも破壊される「相互確証破壊」の概念によって抑止されている。その攻撃目標は、都市部と軍事施設がメインだ。それに対してサイバー兵器は、国中に停電を起こしたり各制御システムに干渉したりするような大規模攻撃に限らず、もっと焦点を絞った日常的に使用される製油所の操業を停止させたり、市役所のコンピューター・システムを麻痺させたりといった、防御の手薄なところも狙われる。そして、それらで事故や不具合が起きたとしても、そもそも何者かの攻撃とは断定しにくく、どこに反撃すればいいのかが不明確なため、抑止力を働かせる有効な方法が見つからない。

 6月の初めに横浜市を走るシーサイドラインの車両が逆走して車止めに衝突する事故が起きた際に、識者が独立したシステムであることから外部からの干渉は考えられないと語っていたが、本書にある事例から考えると疑心暗鬼になってしまう。ロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合したのち、ウクライナに誕生した欧米寄りの新政府を不安定化するために、サイバー攻撃を仕掛けたという。首都ではなく辺境地帯が停電に見舞われ、電力会社の中央管理センターではコンピューターのマウスカーソルが、画面の中で動き回って各地の変電所を停止させていったのだとか。さらにマルウェアが仕掛けられており、管理者たちが制御に使うシステムが削除されていたそうだ。本書では、その攻撃が外部ネットワークからの侵入であるかは記されていないが、システム開発者の中にスパイがいれば、外部と遮断されていたとしても可能だと想像できる。

 アメリカでは2009年のオバマ政権時代にサイバー軍を正式に創設し、北朝鮮のミサイル開発に関わる施設へのサイバー攻撃を展開しているという。しかし、たとえその攻撃に成功したとしても、その成果を確認することは容易ではない。しかも当然のごとくアメリカ側も、同様の攻撃を受ける危険が常にある。そのうえ、マルウェアを仕掛けたシステムが外部から独立していれば、情勢が変化しても中止命令を出せないわけで、核兵器よりもコントロールが難しい。そんな危険な世界に自分たちが暮らしていると思うと、暗澹たる気持ちにさせられるばかりだ。

文=清水銀嶺