シャアは「実に困ったヤツ」だった! 安彦良和氏が語るアニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」

マンガ・アニメ

2019/6/24

『永久保存版 機動戦士ガンダム THE ORIGIN ヒストリア』(宝島社)

 1979年4月から放送された「機動戦士ガンダム」は2019年に40周年の節目を迎えた。その間、続編やサイドストーリー、アナザーストーリーといったさまざまな作品が制作され、日本でも有数の人気シリーズとなった。そしてメモリアルイヤーとなる本年、なんとNHK総合テレビで「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星」が4月から放送されているのである。『永久保存版 機動戦士ガンダム THE ORIGIN ヒストリア』(宝島社)では、監督の安彦良和氏らスタッフの喜びの声が寄せられている。

 一応、ご存じない人のために「機動戦士ガンダム」の概要を説明しておくと、このシリーズ第一作は「ファーストガンダム」(以後「ファースト」)とも呼ばれ、人類が増えすぎた人口を宇宙へ移民させている宇宙世紀という時代が舞台。宇宙移民者はスペースコロニーという建造物の中で暮らしていた。その中の「サイド3」というコロニーが「ジオン公国」を名乗り、地球連邦政府に対し独立戦争を仕掛けるというのが物語の発端だ。民間人の少年「アムロ・レイ」が偶然に地球連邦軍の「ガンダム」に乗り込んだことから戦争に巻き込まれ、ジオン軍のエースパイロット「シャア・アズナブル」ら強敵と戦いながら成長していくストーリーである。

 今回の「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星」は「ファースト」の前日譚にあたり、主人公は「赤い彗星」の異名を持つシャア・アズナブル。実はこの作品、元々「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」としてOVAという形で制作され、NHK版はそれをテレビ用に再編集したものなのだ。ゆえに本書は「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」のストーリーがすべて紹介されているので、現在視聴中という方はネタバレになるのでご留意いただきたい。本稿では安彦良和氏のインタビューを中心に、この放送の意義などを見ていこう。

 監督の安彦氏は、「ファースト」でキャラクターデザインを務めた中心人物のひとり。安彦氏はNHKでの放送に対し「40年経ってついに晴れ舞台に上がった感じ」だと、率直な喜びを述べている。初回放送当時のさまざまな苦労をその身で体験しているからこそ、感慨もひとしおなのだろう。加えて「全国津々浦々で観ようと思ったら観られる」ことにより、多くの人に観てもらいたいという気持ちも強いようだ。というのもOVAのイベント上映時に安彦氏が挨拶に立ったとき、客の年齢層の高さが目立ったから。「おじいちゃん、おばあちゃんから子供まで」に作品を届けたいという氏の願いも、NHKでの放送なら叶うであろう。

 作品面に関しては、今回の主人公であるシャア・アズナブルに対する安彦氏の言及が興味深い。氏によればシャアは「実に困ったヤツで、復讐で自己完結しちゃっているわけです」という。そして「シャアは別に、思想とか理想とかないんだよって思ってます」とも述べている。確かにそう考えれば、後にシャアが「機動戦士Zガンダム」で「クワトロ・バジーナ」と名乗っていたとき、シャアという人物を「彼は個人的な感情を吐き出すことが、事態を突破する上で一番重要なことではないのかと感じたのだ」と語ったことや、映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」でアムロと決闘した際に「私は世直しなど考えていない!」と言い放ったことにも合点がいく。

 40周年を迎え、さまざまなプロジェクトが予定されている「ガンダム」シリーズ。今後も多くのクリエイターたちによって作品が作られ続けていくだろう。だからこそNHKでの放送には意味がある。より多くの人の目に触れることでファンの裾野はさらに広がっていき、シリーズを継続する力となるからだ。もしもかつてアニメを「低俗なもの」と思っていたような人々が「ガンダム」を観て気に入ってくれたなら、「こんなに嬉しいことはない」のである。

文=木谷誠